親分と魔法の子猫6

珍しく朝早めに会議場入りをしたスペイン。

いい加減限界だ。
禁断症状が出る前に…目指すはふわふわな金色の毛。

「ここやったかぁ~~!!!おはよ~さんっ!!!!」

今回の議長国としてせっせと書類をテーブルに並べている自分より一回りは細い背中に抱き着いて、その金色の頭に思い切り頬ずりをすれば、

ひょわあぁあ~~!!
と、驚きの声をあげて、びくぅ!!とすくみあがる青年。
手にした書類がハラハラと宙に舞う。


「お、脅かすなっ!!」
と、驚きのためか少し潤んだまんまるのグリーンアイで睨みつける様子は、愛しいアーサーの怒った時の表情によく似ている。

似すぎていて、スペインも一瞬、これが子猫のアーサーではなく国のイギリスだということを忘れてしまうくらいだ。
いや、実際は同一人物?なのだが…。

さらにそのあとの、
「ま、お前が脅かそうとしたのに乗ってやっただけで、俺は別に本当に驚いたわけじゃないんだけどなっ!」
といった強がるところまでも瓜二つだ。


前回の会議後のやりとりが効いているのだろうか…。

それまでは何をしても他人行儀な感じだったのが、今は他の気を許した相手に見せるような感情豊かな表情を見せてくれる事に、スペインは気を良くした。

「堪忍な~。そうやんな。イギリスは敏いもなぁ」
と、思わずその頭を撫でると、イギリスは少し頬を赤らめて、

「わ、わかればいいんだよっ!書類拾うの手伝えっ!」
と、気恥ずかしそうに視線を逸らす。

ああ可愛え。
アーサーにそっくりやんなぁ。
そんな事を思うと自然に顔がほころんだ。

はいはい、と、素直に返事をして一緒に書類を拾うと、ついでに並べるのも手伝ってやる。
そんな些末な事でも一緒に出来れば楽しい。

1週間前、アーサーがまた不思議な夢に出てきて、スペインが世界会議から戻るくらいまで留守にすると言った翌日から、また忽然と消えてしまったから、なおさらだ。

それから1週間後の今日までは久々にずっと一人で、金色の柔らかい毛を撫でたくて限界だった。

あの素直でないようでいて、クルリと一周回ってわかりやすい子猫が恋しくて、あの子と同じような反応を返すこのツンデレ国家が可愛らしくて仕方ない。

性格だけでなくふわふわの毛の手触りも、驚くとすぐびっくり眼になる大きなペリドットの瞳も、あの子によく似ている気がする。

ああ、本当に…この子があの子猫くらい幼い頃に攫ってきてしまえばよかった。

そうしたら保護を必要としているアーサーと保護をしたい自分のように、どうやら愛されたいこの子と愛したい自分は、案外うまくやっていけたのではないだろうか…。

寿命の短い猫のアーサーと違って国の化身であるこの子なら先に消えてしまう心配も要らない。
ああ、考えれば考えるほどこの子が欲しい。


理性より感情が先立つラテン男のスペインは、もうすっかりイギリスを籠絡する気満々だ。

食いしん坊のアーサーにするように、まず食べ物で釣ってみようかと思えば案の定で、

「あんな、親分、遅刻せえへんようにって頑張ってみたんや。
で、朝食代わりにチュロス持ってきてんけど、一緒に食わへん?」

と、このためにわざわざ駐英している部下の家のキッチンを借りて作ったチュロスの袋をゆすってみれば、イギリスの顔がわかりやすくほころぶ。

「し、仕方ねえから一緒に食ってやる。
別にお前にのためじゃなくて、俺が丁度一休みしたいって思ってたからだからなっ!」

と、また素直でない言葉を吐きながらも目を輝かせている様子も愛しい子猫のアーサーを思わせて、スペインの心を温かくさせた。

二人で準備をしたため予定より早く準備が終わって空いた時間。

イギリスの淹れてくれた美味しい紅茶を飲みながら食べるチュロスは格別だ。
リスのように頬張る様子が可愛らしくて見惚れていると、頬に砂糖がついているのに気づいて指先で拭ってやる。

すると当たり前にその指先についている砂糖をぺろりと舐めとって、次の瞬間ひどく慌てて、たまたま口をあけたところにお前の指があったからで、舐めようとしたわけじゃ…などと言い訳するあたりがまた可愛い。

仕草一つ一つがアーサーを思わせる。
しかしそんなスペインの幸せは、数分後、乱入者によって壊されたのだった。




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