「びっくりさせて堪忍な。」
と、そのままぐりぐりと額をすり寄せると、子猫はまるで慰めるかのように、ま~お、と鳴いて、柔らかい前足でぱふぱふとスペインの頬を軽く叩く。
ほんまは自分が一人で食べれるようにしてやった方がええんやけどな。
俺は国で、自分は猫で………」
と、そこで子猫の頭を温かい涙が濡らしていった。
「自分のことめっちゃ可愛えって思うてても、自分も10年ちょいしたら、親分の事置いてってまうやん。
そしたら親分また一人ぼっちや。
可愛え弟と一緒に暮らしとるギルちゃんにはわからへん。
ロマもベルも…可愛がってた子ぉは皆ほんまの兄弟のとこへ戻ってしもて、親分、毎日一人ぼっちで起きて、一人ぼっちで飯作って、一人ぼっちで飯食うて、一人ぼっちで寝てたんやで?
誰かおる時はめいっぱい一緒におりたいやん。
一人やって感じる間ぁないくらいベタベタしたいやん。
せめて自分が国と同じくらい生きられたらなぁ…しゃべれんでも側におってくれるだけでええねん。
寂しい…寂しいわ……」
嗚咽をこぼすスペインを子猫は大きな目で見上げると、少し伸びをして、ぺろぺろと絶え間なく流れる涙を舐めとっていく。
その合間にまるで泣くな、とでも言うように、ま~お、ま~おと鳴きながら柔らかな肉球でスペインの頬をなでる様子に、余計に涙が止まらなくなった。
そうしてどのくらい泣いていたのだろうか。
いい加減落ち着いてきて、涙も乾いてくると、スペインはアーサーの食事が途中だったことに気づいて、『堪忍な。』と、その優しい子猫の頭を撫でると、ソッと皿の側におろしてやった。
「さっきと同じマンマやで。食べ」
と、うながす。
アーサーは利口な子猫だ。
これでスペインがやらなくても自分で食べるようになるのだろう。
それはすごく寂しい事だが、餌を自分で食べるようになったからといって、どこかへ行ってしまうわけではない。
そう思って言ったわけだが、アーサーはくるりと反転。
てふてふとスペインの所まで戻ってくると、ま~お、ま~おと鳴く。
「……?ミルクの方がええん?」
と、とりあえず皿の方へと伸ばしかけたスペインの手に、アーサーはパシッと前足をかけた。
そして、ちらりと餌の皿の方へと視線を向けたあと、スペインの人差し指をぺろりと舐めて、もの言いたげにじ~っとペリドットのような澄んだグリーンの目でみあげてくる。
……?
ま~お、ま~おっ
言いたい事がわからずスペインが首をかしげると、今度は指をパシパシと前足で叩いて、餌の皿の方へトトトッと近づいていき、またとてとてとスペインの方へ来て鳴く子猫。
「こう…か?」
と、スペインが皿に指をつっこんで、人差し指でペーストをすくいあげると、子猫は、ま~おっ!と、勢いよく人差し指に走り寄って来て、その指の上のペーストをぺろぺろ舐め始めた。
「…あ…アーサー?」
スペインがぽかんとしている間に子猫はすごい勢いでペーストを舐めつくし、またせわしない様子で、ま~おま~おと鳴く。
それでもぼ~っとしていると、前足が、今度はいつにない高速でテテテテテッ!と、スペインの掌を叩き始めた。
「お、おん。待ってな」
と、そこでスペインは慌ててまたペーストをひとすくいする。
それを繰り返しているうちに皿は空になり、子猫は最後の一すくいを舐め終わると、指先をちゅうちゅうと吸って、満足げに毛づくろいを始めた。
そしてその途中でそれを呆然と凝視しているスペインに一声ま~おっ!と、なんとも男前な様子で鳴くと、また毛づくろいを続ける。
それはまるでスペインの気持ち、行動を全てわかって受け入れてくれているようで――お前の愛情くらい、いくらでも受け止めてやるよっ!とでも言われているようで、なんだか胸がいっぱいになった。
スペインの金色子猫はこんな風に、不器用で寂しがり屋で甘えん坊で…でも賢くて妙に男前な素晴らしい子猫なのである。
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