親分と魔法の子猫4

自分の被保護者だと思えば、スペインは確かにやるのだろう。
その分自分が大変な思いはするだろうが、まあロマーノとは違って、所詮猫だ。
生きても10年ちょっとだろうし、長い自分達の一生の間ではほんの一瞬である。

そこで、
「まあ、ほら、プーちゃん自分で言ってたじゃない。よその躾に口挟まない方がって」
どんどん険悪になる空気に、フランスはあえて気軽な口調でそういうが、プロイセンは

「相手の生命にかかわる事じゃねえならな。
こんな癖がついて餌食べられないようになれば、こいつは死んじまうだろっ。
これは立派な虐待だっ!」
とぴしゃりと言い切る。


うああ~~と、頭を抱えるフランス。

良くも悪くも感情的なスペインから折れる事はまずないし、プロイセンの側がこの状態だと、もうお手上げだ。

「とにかく、お前がちゃんと育てる気がねえなら、こいつは俺が責任を持って育てる」
と、いつになく感情的にそう言ってアーサーに手を伸ばすプロイセンに、

「アホな事言わんといてっ!この子は親分の子猫やでっ!!」
と、スペインは慌てて子猫を腕の中に抱え込む。

抱え込まれたアーサーも、何か異常が起こっているというのは感じたのだろう。
怯えたようにガシっとスペインのシャツに爪をたててしがみついた。


そんな風に普段はよく鳴く子猫が声もなく丸い目を大きく見開いたまま硬直している様子に、プロイセンはハッと我に返る。

懐いてくれたとは言っても自分は部外者だ。

子猫にとってはまだほんの生まれたてくらいの頃から自分を育ててくれたスペインは親同然だし、そちらにより心を許しているのが当然である。
そこを無理やり連れて帰っても、怯えさせて、下手をすれば体調を崩させるだけだ。
子猫のためのはずなのに、そうなったら本末転倒だ。


「俺様、今日は帰るわ。」
一度出直そう、と、プロイセンはさっと決断をする。

いくら可愛いといっても、所詮他人の家の子猫に対して、あまりにものめりこみすぎだ。
自分が言っている事が間違っているとは決して思わないが、あまりに冷静さに欠いている。
数多くの動物を可愛がりながらも非常に理性的に育て飼ってきた自分らしくもない。
少し頭を冷やした方が良い。

そんな判断の元、それ以上何かを言われる前に、さっさと鞄を持って退散する。
多少放置したままの私物もあるが、まあ悪友の家だ。
また来た時に持ち帰れば良い。

こうしてフォローを入れる間もなくさっさと家を出て行ったプロイセンが消えたドアと、子猫をしっかり抱え込んでいるスペインを、一人オブザーバーとして見ていたフランスは交互に見比べるが、結局自分も立ち上がった。

「ちょっと今回はお兄さんも帰るね。プーちゃんの様子気になるし」
と、言えばスペインも止めはしない。

「おん。またな~」
と、子猫をしっかり抱えたまま。ひらひらと手を振って見送る。

こうしてフランスもとりあえず手荷物だけ抱えて去ったあと、パタンと閉まるドア。
残されたスペインは小さく息を吐き出して、子猫の小さな頭に顔をうずめた。







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