親分と魔法の子猫3

『最初はな、いきなり皿からだと食べねえかもしれねえから、そしたら指先にでも乗せて食べさせてみるんだ』

そんなプロイセンの言葉に乗せられて、悲しそうに自分を見上げてミルクをねだるアーサーから断腸の思いで視線をそらし、完成させた離乳食。

これで皿からぱくぱく食べられた日には泣ける。
というか泣こう。泣きながらプロイセンを殴り倒すしかない。

そんな固い決意を抱いてリビングに戻ると、いつまでも寝ているフランスの顔の上で足踏みをしている子猫。

ああ、あんな勝手に寝てる奴まで起こしてやろうなんて、うちの子めっちゃ優しい。
可愛くて優しくて賢くて完璧やん?と、思っていると、恩知らずな事に目を覚ましたフランスは、おおげさに悲鳴をあげて、子猫を振り払って立ち上がった。

…何してくれとるんやっ!あのドアホがあぁぁあ~~!!!!!!

これはもう鉄槌を下すしかないっ!!と、とりあえずフランスを思い切りはり倒したあとで、スペインはコロンと床に転がったアーサーにダダダダダッ!!と駆け寄って、くりくりしたグリーンの瞳をまるくしてキョトンとしているアーサーを抱き上げた。

「アーサー、可哀想に。怪我ないか?」

と、本当に力任せに触れたら壊れてしまいそうな、まるでぬいぐるみのように小さくふわふわした足や身体、頭などを、怪我をしていないかと念入りに確認していると、どうでもいいくらい丈夫なくせにフランスが自分の心配は?とわめきたててくる。

もちろんそんなものは当然のようにスルーしていると、さらに今度は爪をたてられただの馬鹿な事を抜かし始める。

ありえないっ!
アホやないか?脳みそにまでヒゲ生え取るん?
うちの可愛え可愛えアーサーに限って爪たてるなんて事あるわけないやろっ。
と、親ばか丸出しでイラつくスペイン。

そんな濡れ衣に腹が立ってもう一発殴っておこうかと思ったが、プロイセンの

「まあ、そんな事どうでもいいから、食わせてみようぜ」
の一言でハッと我に返る。

そうだ、なんのためにお腹がぺこぺこで悲しげに鳴くアーサーを一人で放置したと思っているのだ。
ヒゲごときを殴っている場合ではなかった。

と、スペインはプロイセンが置いた離乳食の皿の側にアーサーをおろした。


ま~ぉ?
目の前の見慣れないペーストに不思議そうに近づいて、前足でぱふぱふと皿の縁を二回叩き、次にふんふんと匂いを嗅ぐ子猫。

しかし次の瞬間にはクルリと反転。

とてとてとスペインの側に戻ると、
ま~お、ま~おぉぉ!
と、ミルクをねだった。
思った通り、あれをまだ食べ物と認識できてないようだった。

そこでスペインはアーサーを抱き上げて、手の中に抱えたまま皿の所まで戻る。
そして離乳食のペーストを人差し指の先にすくってアーサーの口元に…。

それでもわけがわからないのか不思議そうにペーストとスペインの顔を見比べている子猫に、

「美味しい美味しいマンマやでぇ。ええ子やから食べてみ?」
と、声をかけてやると、子猫はパッと視線を逸らした。

しかし少しすると恐る恐ると言った風にまたスペインを見上げる。
なんだか困っているみたいだ。

そういえば遥か昔、好きじゃない物を食べさせられる時のロマーノがこんな様子をしていた気がする。

ああ、懐かしいなぁ…と、そんな昔の思い出に浸っていると、アーサーは当時のロマーノよりは聞き分けが良いらしい。

少し嫌そうに…それでも小さなピンク色の舌を出して、ぺろりとスペインの指についたペーストをなめた。

ぴくんっと、小さな体が揺れる。
そしてまたペロリと一舐め。

そこからはもうすごい勢いで、ぱふっとスペインの手の平に前足をかけて身を乗り出すと、ふがふが言いながらペーストを舐めとっている。

か、可愛えっ!!
必死にペーストを舐める子猫に、スペインのハートはわしづかみだ。

ざらりとした小さなピンク色の可愛い舌で全部舐め終わってしまうと、子猫はお代りをねだるように前足でぱふぱふスペインの手を叩きながら、ま~お、ま~おと鳴いて、くるりんと丸い目で甘えるように見上げてくる。

そんな可愛いおねだりをされたらもう夢中だ。

「ちょお待っといてな~」
と、スペインはデレデレと頬を緩めながら、また離乳食の皿に指をつっこんだ。

「おい…」
と、何度かそれを繰り返してると、プロイセンが呆れた顔で声をかける。

「なん?」
「…皿の方に誘導してやれよ」
「なんで?そんなんしたら、皿から食べるようになってまうやん」
「そうなんねえと困るだろうがっ!」

ああ、やっぱり…。
どう考えてもスペインの目的はそっちだよねぇ…と、諦めと共に遠い目でため息をつくフランス。

真面目なプロイセンは
「毎日ずっとそうやって食わせてやれるわけじゃねえんだから、ちゃんと躾けろっ!」
と、まだあきらめずに言っているが、無駄だと思う。

「毎日こうやって食わしたるからええねんっ。放っておいてや」
と、スペインは言い切った。

「どうやっても無理だろっ!」
「無理やないわっ!親分、面倒みたるって言うて途中で放り投げた事ないのんは、プーちゃんやって知っとるやろっ」

あ~うん、そうだねぇ…。国庫空っぽにしてもロマーノ育てたもんね…。

と、そのあたりはフランスも同意だ。




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