親分と魔法の子猫2

こうしてまずプロイセンがカタンと皿を床に置き、アーサーはそのそばにおろされるが、正直…ドロドロのそれはあまり食欲がわくようなものではない。
作ってくれた二人には申し訳ないが…と、アーサーは皿から反転、とてとてと側にしゃがむスペインの方に戻ると、マオマオと鳴いてミルクをねだった。

それに対してスペインはまたものすごく良い笑顔で
「そやな~。見覚えないモンやからいきなり食べられへんやんな~」

と、まるでロマーノとイタリア二人に囲まれた時のように思い切り嬉しそうな笑顔を浮かべてアーサーを抱き上げる。

まるでアーサーが餌を食べないのを喜んでいるようなその顔に、アーサーは内心頭の中ではてなマークを浮かべて、まお?と首をかしげた。

そんなアーサーにまたニコッと微笑みかけると、スペインはしゃがんだ体制のまま、器用に離乳食の皿に近づいて、指でドロドロの離乳食をすくってみせる。

「美味しい美味しいマンマやでぇ。ええ子やから食べてみ?」
と、突き出される指。

そこでフランシスはスペインの上機嫌の理由を瞬時に察した。
これは…元々皿から食べない場合は自らの手で食べさせるつもりだったのだろう。
ちっちゃいちっちゃい子猫に指ですくって餌をやる…いかにも可愛いモノ大好き、小動物大好き、子ども大好きのスペインが喜びそうな作業だ。

というか、嬉々として自分の指を――正確には指に乗せた餌だが――口に入れさせようとする図が変態くさいと思う。
みんな自分の事をやたらと変態と言うが、それ自体は否定はしないものの、スペインも立派な変態だ、と、フランスは声を大にして言いたかった。


一方…柔らかな春の陽射しのような微笑みを浮かべて自分の前に怪しげな餌の乗った指を差し出すスペインに困惑するアーサー。

――そう、見る相手によって、その笑みは【変態】と【春の陽射し】と言うまったく似つかないものになるのが不思議ではあるが、それはまあ置いておいて――アーサー的には指を舐めるくらいならしてやってもいいが、得体の知れないそのドロドロしたものは正直口にしたくない。

認めるのは非常に不本意だが、自分が作った料理を前に青くなったフランスやイタリア、日本など美食家の国々の気持ちが、今なら少しわかる気がした。

「どないしたん?親分、プーちゃんに教わって一所懸命作ったんやで?」

気まずさにアーサーが思わず視線を逸らしていると、スペインの方はしょぼんとした表情で顔を覗きこんでくる…。

うぅ………

善意で勧められるのってこんなに気まずくて困るものだったんだな…これからはイタリアや日本に勧めるのは控えよう…髭はどうでもいいが…

などと少し現実逃避をしながら、チラリと上目づかいにスペインの顔をうかがうと、視線があって、また、にっこりと微笑まれる。

善意…そう、善意なんだよな…。

子猫の姿になって以来、いつでも優しかったスペインのこれまでを思い出し、アーサーは決意した。

まあ、プロイセンとスペインが作ったものなら、最悪でも死ぬことはないだろう。
ごくり…と唾を飲み込み、ままよっ!と、差し出された指先を舐めてみる。

………
………
………

あれ?意外においしい。
気のせいかな?と思ってもう一度ペロリ。
いけるいける。
アーサーは前足を、たふっとスペインの掌にかけて身を乗り出すと、スペインの指を…いや、正確には指に乗っているペーストをぺろぺろ舐めだした。





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