同居相手は金色子猫7

こうして全然解決を見ないまま、夕方すぎに悪友二人がやってきた。
が、結果から言うと、全く無問題だった。

例によってアーサーをエプロンのポケットに入れたまま二人を出迎えるスペインを見て、まずフランスがぷっと吹き出した。

「なあにっ?その子猫っ!まゆげ?!まゆげなのっ?!!イギリス産の猫?!!
もしかして、だからお前、前回の会議で坊ちゃんかばっちゃったりしてたわけっ?
愛猫に似てるから」
お腹を抱えて笑うフランス。

イギリスに似ている…というところまでは思ったらしいが、それがイコールイギリスだという発想にはつながらなかったらしい。


「もしかして、足癖悪くて食い意地張ってたりする?!」

なんて失礼なことまで言うので、触ろうとしてきた手に思い切り肉球パンチをお見舞いしてやったが、さすがにこの姿だとダメージを与えられない。

悔しいから、やれっ!とばかりにスペインを見上げて、マオッ!と訴えると、スペインはにっこりと黒い笑みを浮かべて、無言でフランスを蹴り倒した。


一方のプロイセンは、そんなお約束のようなやりとりを眺めたあと、一歩アーサーの方へ踏み出すと、その切れ長の赤い目でアーサーと視線を合わせるようにかがんで、

「お前、賢いな。もしかして悪口言われてんのわかるのか?」
と、ニコっと親しげに笑う。

プロイセンはいつも小鳥を頭に乗せたりしているせいだろうか、なんとなく動物慣れしている気がする。
元々仲が悪くはなかった相手だが、猫の姿でいると、プロイセンがまとう雰囲気はなんとなく好ましいものにうつった。


「お前可愛いなぁ。なあ、俺様撫でてもいいか?」

と、少し片手をアーサーの側に持ってくるが、そう言ったまま待機しているので、ま~お~と了承の意を唱えると、ダンケ、と、そこで初めてまるで驚かさないようにとばかりにゆっくり手を持っていって、アーサーの頭をなでる。

そういえば…撫でたり触ったりするのに了承を取ったのはプロイセンが初めてだ。
傍若無人なようでいて、意外に距離感を大切にする男である。
改めて実は良い奴だと認識をしなおした。


こうして二人をともなって家に入るスペイン。


「下ごしらえは済んでるよね?」
と、フランスは当たり前に持参したバッグの中からエプロンを出して着けるとキッチンへ。

「俺様なにやればいい?」
と、聞くプロイセンにはスペインが
「貯蔵庫から酒とか出してきたって。
この子長時間置いてくの怖くて出してこれへんかってん。
出したら大急ぎで冷蔵庫やで」
と、貯蔵庫を指差した。


「おう、わかった。」
プロイセンも答えたあと、ふりむいて
「確かにまだ本当に子猫だもんな。もうちょい大きくなるまでは長時間放置は危ねえよな」
と、アーサーの頭を軽く撫でたあと、貯蔵庫の方へと消えていく。


どうやら最初のスペインの申告通り、他と違ってお客様ではないらしい。
当たり前に飲み支度をするため働くのが前提のようだ。
プロイセンが貯蔵庫に向かうのを見送ると、スペインもキッチン組である。



下ごしらえした材料をスペインとフランスがそれぞれ料理に仕上げていくのをアーサーはじ~っと眺めている。

なにしろ人間でいる間はスペインとはそこまでの付き合いではないし、フランスはイギリスにキッチンに立ち入るのを禁じるため、こんな風に眺める事はできない。
今のうちに技術を見て盗んでやるっ。

そう意気込んでガン見するわけなのだが、ちょうどスペインが皮むき作業などをしていると、つながった皮が目の前でぷらぷら揺れるので、どうもうずうずする。
猫の本能なのだろうか…手を出さずにはいられない。

最初は気づかれないようにそ~っと前足を伸ばすのだが、そのうちもう必死に揺れる皮を追いかけ始めると、頭の上から

「こらっ。危ないで。大人しゅうしとき」
と、いったん包丁を置いて軽く水洗いして拭いた褐色の手が伸びてきて、軽く指先でアーサーの頭を撫でると、また水洗い、包丁を持って皮むきにもどっていくのだ。

マオ~…。
わざとじゃない、わざとじゃないんだ。俺だってホントは大人しく見てたいんだ。

でも、そこにこれ見よがしに揺れる皮があるのが………と言い訳をしてみても、それはさすがにスペインにも通じないようだ。

しかししょぼ~んとポケットの中でうなだれると、小さく笑う声がして、また手が伸びてきて抱き上げられる。

「ほんま、しゃあないなぁ。気になってまうんやな。
せやったらいつもの場所で見てようか」
優しくそう言われてちゅっと額にキスを落とされて、そのままテーブルの上におろされた。

そこには大好きな○タリアンフルーツのマグ。
どうやらなんとなくはわかってくれたらしい。
嬉しくなって、ま~お~と鳴くと、アーサーはいつものようにテーブルの上にある缶を踏み台にしてストンとその中に納まった。

ああ…落ち着く。

最初は単に、普段安いカップを使っているスペインの食器棚にこのマグを見つけて、何故こんなちゃんとしたマグがあるのに、そこらの安いカップを使っているのかと言うつもりで鳴いていたのだが、それをスペインはどう勘違いしたのか、アーサーがそのマグを気に入ったのだと思ったらしい。

まあ…実際自国ブランドほどではないが、このフルーツ模様のカップも上品で可愛らしくて嫌いではない。

そして…入ってみるとこの狭い空間が意外に落ち着く事がわかった。

それ以来、キッチンで火を使ったり何か危ない時には、スペインはアーサーが入るようにこのカップを出してくれるし、アーサーも当たり前にこのカップで落ち着くのが習慣化している。

猫になって以来、狭いところは好きなのだが、やはり良い食器の中は良い。
そう…いうなれば良い家具に囲まれているような感じなのだろうか。

これで目の前のゆらゆらに惑わされることもなく、楽しく料理を見学できる。

ふぅ…と、内心一息つくと、アーサーは忙しく手を動かすスペインとフランスをまったりと眺めた。


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