同居相手は金色子猫5

ばれたら…もうこの優しい生活は終わりだ。

そう思うとついついぬくもりが恋しくて、ミルクを飲み終わると大抵そこで寛ぐ自分専用のクッションに向かわず、スペインのジーンズの裾に前足をかけて、ま~お、ま~おと抱っこをねだってみる。

するとスペインは少し目を丸くして、次の瞬間には優しく微笑んで、アーサーの視線に少しでも合わせるようにその場にしゃがみこんだ。

「アーサー、どないしたん?今日は甘えん坊さんか?」
と、それでも抱き上げて額にキスをくれる。

それから床におろされそうになって、アーサーは必死にスペインのシャツの袖口に爪をたてて抵抗した。

もうこうして優しく触れられる時間は残り少ないかもしれないのだ。
普段ならもっと構ってくれるスペインなのに、今日はだめらしい。

「堪忍なぁ。今日はこれから貯蔵庫から酒とか重いもん色々出したりするから危ないねん。
あいつらむちゃくちゃ飲みよるから」
と、最後に一撫でして立ち上がる。

そうして歩き出すスペインの後ろをアーサーは必死に追った。
ま~お、ま~お、追いながら鳴くと、スペインは困ったように振り向いていう。

「ここから先は危ないからあかんよ。階段もあるし、自分怪我でもしてもうたら大変や」
と、地下の貯蔵庫に続く階段のある部屋のドアを閉めてしまった。


パタン!と閉まるドアは子猫から見るとまるで世界に立ちふさがる壁のように大きく圧倒的な感じがする。

アーサーはマ~オマ~オ鳴きながら必死にそのドアをかりかりと引っ掻くが、子猫の小さな前足で引っ掻いたところで何にもならない。

そのことにひどく絶望的な気分になってきて、その場にくたりとへたりこんだ。

結局どういう姿をしていても自分の本質など変わりはしないのだ。
他人から好かれない…それがわかってるから離れようとして、そのくせ他人から好かれたい、愛されたいという気持ちが人一倍大きい。
だから一度大丈夫と勝手に判断してしまうと、相手に過度に求めすぎて煩わしがられて嫌われる…。

アメリカの時だってそうだった。

早い時期に自分の方から手を離してやれば、あんなつらい裏切られ方はせず、カナダのように穏やかに独立をして、今だって良い関係を続けていられたかもしれない。


猫の姿ももう潮時なのだろうか…構われなくなる前、煩わしがられる前に消えてしまおうか……。

今回なんて元々は魔法の暴発で困ってたところを助けられた恩返しだったのだ。
スペインが自分をもう要らないなら、幸いじゃないか。
スペインが満足するまで子猫の姿で側にいた、それで恩を返したという事でいいじゃないか。

まだきっと大丈夫。忘れられる。
人間に戻ったら…思い切り泣こう。


子猫の姿は心地よいけれど、悲しくても涙を流して泣けないのだけはつらい…。



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