同居相手は金色子猫4

ふわふわの敷布は太陽と花の香り。
柔らかい掛布には綺麗な花の刺繍がしてある。

どちらもリヒテンシュタインのお手製のプレゼントだ。
  
今日もその心地よい掛布の中から抜け出ると、アーサーはスペインを叩き起こす
最初は頬をぺしぺしと…それでも起きなければ顔の上で足踏みだ。

子猫の身体は小さいせいかすぐお腹がすくのだ。
朝食はがっつりいきたい派のアーサーとしては、いつまでもお預けをくらってはいられない……とは言っても、やはり子猫なのでミルクしか受け付けないのだが。
まあでも、この体でいると、それがとても美味しいのでよしとする。


「まぁお?」

と、ようやく起きて一緒にキッチンへ行ったスペインが、ミルクを用意してシャワーを浴びに行く前に、今日の予定を聞いてみれば――不思議なことに、KYの名を欲しいままにしているスペインだが、何故かアーサーが言いたいことはいつも察する事ができるのだ――スペインはしゃがんでアーサーの頭を撫でながら

「今日は悪友共やから気ぃ使わんでええよ~。
ムカついたら肉球キック食らわしたっても全然おっけぃや」
と言うと、立ち上がってシャワールームへと消えて行った。


……お前はそうかもしれねえけどなぁ……
アーサーはその後ろ姿を見送ると、がっくりと肩を落とした。

出来れば悪友ども…特にフランスにはこの姿で会いたくない。

最初の来客、ベルギーの時はめちゃくちゃ緊張した。

鈍感王として名高いスペインはとにかくとして、もしかして他の国なら同じ国として何かを感じて、目の前の子猫が自分、イギリスだと気づいてしまうのではないかと、戦々恐々としていたのだ。

しかし子猫になっている間は国のオーラも消えているようで、猫好きのベルギーは散々はしゃいで思い切りアーサーを撫でまわして帰った挙句、その時の写真を女性の国友達にばらまいたらしい。

そこからは怒涛の勢いで女性の国達が訪ねてきた。

リヒテンシュタイン、ハンガリー、なんとベラルーシとウクライナまで。
もちろん女性陣に同行して、もしくは話を聞いてオーストリアやイタリア、スイスなど男性体の国も若干訪ねてきたが、いずれも子猫がイギリスだと気づいた様子はない。


『ロマが待機用マグ用意したって聞いて、うちはこれもってきたんやで。
猫ちゃんのお食事用に使ったってっ』
とベルギーがベルギー王室御用達のロイヤルボッホのボウルを用意すれば

『ベルギーさんがミルク用のボウルをプレゼントなさったとお聞きしたので…これ宜しかったら猫ちゃんに使って下さいまし。』
と、リヒテンシュタインが綺麗な刺繍やレースをふんだんに使った手製の布団セットをプレゼントしてくれた。

はっきり言って、女性陣のプレゼントのおかげで、普段使いはそこらへんの安い布団に安い食器を使っているスペインよりも、高級品に囲まれている。

女性はやはり小動物が好きなものらしい。

小動物になど興味がないかと思っていたベラルーシですら仏頂面のまま、しかし恐る恐るアーサーの頭を撫でてきて、次の瞬間きつく結ばれていた口元にかすかに笑みを浮かべたくらいだ。

もっともそれに気づいたのは、おそらくすぐそばで彼女を見上げていたイギリスだけではあるが…。

ウクライナはいつものようにほわほわと楽しげにアーサーを抱き上げていたが、胸元に抱き寄せられた時は息が出来なくなって、スペインが気づいて救出してくれなければ死ぬところだった。

本当に…よもやあのウクライナの巨乳の間に抱き込まれて窒息死しそうになる日が来ようとはイギリス自身も思ってもみなかった。

ハンガリーとオーストリアと共に訪ねてきたイタリアも、普段はあれだけイギリスから逃げ回っているくせに、嬉しそうに抱きしめていた。


これだけ多くの国々が気づかないので、イギリスもすっかり安心していたのだが、フランスはわからない。
腐れ縁だけに何か感づくのではないだろうか…。

出来れば避けたい…が、スペインとの関係を考えればずっと避け続けることもできないんだろうなぁ…とも思う。

自分が最近散々可愛くなってきた、懐かせたいと話していたイギリス当人だと知ったら……さすがにスペインも怒るだろうし、引くだろう。

別に騙すつもりもからかうつもりもなかったのだが、過去の諸々を考えると、そうは思ってもらえないに違いない。


…マオ………

高級ボウルの縁に前足をかけ、ミルクを前にうなだれながらそんなことを考えていると、いつのまにやら戻ってきたスペインの声が頭の上から響いてくる。


「アーサー、どっか具合悪いん?!どないしてん、ミルク飲まずにっ!病院行くかっ?!」
オロオロとひどく慌てた半泣きの声。

以前、スペインとケンカをした時ミルクを飲まなくて病院で点滴をされた事があるので、スペインはそのあたりはトラウマらしくて、かなり神経質になっていた。
いつでも動じないこの男にしては珍しく、参っているのがまるわかりな表情になる。

ああ、そんな顔をさせたいわけじゃない。
心配させたいわけじゃない。

元気だと主張するために、伸びてくるスペインの手をぺしっと前足で叩くと、ふ~っ!と少し威嚇をして急いでミルク皿に顔を突っ込んだ。


それを見てスペインは

「なんや、なんか他の事に気を取られとっただけなんか。
もう、親分は別にアーサーのミルクをとったりせえへんよ~。ゆっくり飲み」
と、心底ほっとしたように笑うと、本当に愛しいものにするように、優しく頭を撫でる。

人間のイギリス”はこんなスペインの顔を知らない。
大切にされる気持ちなんて知らないのだ。


切なくて悲しくて、でも今は幸せで……もし今人間の姿をしていたら、きっと泣いていると思う。


でも子猫は涙を流すこともなく、ただぺちゃぺちゃと自分を愛してくれている相手が用意してくれたミルクを舐め続けた。



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