親分と子猫8

「え?スペイン?…どこへっ……」

驚くフランスの横を通りすぎ、ツカツカとアメリカが一方的に言い争っている現場に割り込んでいくと、スペインはイギリスの腕を掴んでグイッと自分の後ろへと押しやる。

そんないきなりのスペインの行動に、アメリカもイギリスも他の国々も唖然として言葉もない。

「ちょ…スペ……」

それでもいち早く我に返ったイギリスが口を開きかけた時、最近の暖かい陽だまりのイメージからは程遠い…どちらかと言えば現役時代によく見せた、痛いほどの熱さを感じさせるギラギラと照り付ける太陽のような厳しい目線を送っていたスペインが、これも好意どころか敵意しか感じないような笑みを浮かべて口を開いた。

「気に入らん事あるとすぐマドレ(ママ)に八つ当たりゃあええと思っとるから、他の国達から子どもやってせせら笑われるんやで?このクソガキが。
嫌われる?はっ!誰がや?
心配せんでも個人の話やったら、イギリスも欧州じゃ自分がおらんでも全然困らんくらいには好かれとるからな。
むしろたまたま持って生まれたその莫大な国土から得られる資源なしじゃ誰も相手にしてくれへん自分の方の心配でもしといた方がええんやないか?
ほんま今日は幼児のごっこ遊びかっちゅう自分の戯言を延々と聞かされて、みんなめっちゃ迷惑やったし胸糞悪かってん。
ええ子やからこれ以上大人をイラつかせんと、ガキはガキらしくさっさとお家帰ってテレビで怪獣漫画でも見て糞して寝ときや?」

声を荒げることなく、鋭利な様子で嘲笑うように言うスペインに、会議室中の国がシン…と静まりかえった。

元祖元ヤン、帝国時代を知っている古い国々は嫌な思い出に苦笑交じりに冷や汗をかき、知らない若い国は明るく穏和だと思っていた太陽の国の冷酷な顔に言葉を失う。

誰もが動けない、そんな固まった空気のまま、しばしの時間が流れた。


「確かにもう論じる時間が過ぎてるのに、個人的に突っかかったアメリカも悪いけどさ、お前も言い過ぎだよ、スペイン。
それこそ会議時間過ぎてるんだから、大人なら耳障りだからって突っかかるよりも黙って移動しちゃえばいい話でしょ」

皆が硬直中の会議室で、それでも調停に入ろうと動いたのは、さすがに世界のお兄さんを自称するフランスである。

双方とそれなりに関係の深い古参の国が間に入ってきた事で、固まっていた空気がようやく動き出し、室内に残っていたわずかな国々はそれぞれにまたざわつきながらこれ以上巻き込まれるまいと、帰り支度を急ぎ始めた。

「個人的に突っかかってなんかっ……」
と、その言葉にやや気分を害したように言うアメリカに、フランスは苦笑してその肩を軽く叩く。

「個人的な話じゃないなら、その続きは会議時間中にしなさいな」

と、飽くまで穏やかに何でもない事のようにフランスに言われると、それ以上ムキになっても…と、アメリカもさすがに思ったのか、気まり悪げにうつむき加減でうなづいた。


さて、これで矛は収まったかな…と、やれやれとばかりに安堵の溜息をつくフランスだが、その後にアメリカが

「確かに正しい事だけど時間を考えずに始めたのは悪かったんだぞ。
お詫びにヒーローが友達のいない君と夕飯を一緒してあげるよ」

と、スペインの背後のイギリスに声をかけた瞬間、また室内の温度が一気に下がるような空気を感じて、うあああ~~!と頭を抱えた。


「要らんわっ。ノーセンキューや。この子には親分がおるからなっ。
そうまで言ってんやからな。仕事以外で二度とこの子に近づかんといてや。
一人で飯食うの寂しいなら、他当たったって。
自称ヒーローの我儘ボンと飯一緒したいってもの好きがおるならなっ。
さ、アーサー行くでっ」
と、今度こそ声を荒げて言うスペイン。

そんなスペインに、再び部屋中の国が硬直した。
もちろん、当事者のイギリス自身もである。



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