親分と子猫7

こうして今回も踊るだけ踊って何も結論のでない会議が終わり、各国が早々に帰り支度をする中、

「お前が意見求められてない時に積極的に参加するって珍しいねぇ」
と、おそらく緊張していた中の一国であろうフランスが、そうとは見せないようにと気を使いながら話しかけてくる。

「あ~、あないなアホな話聞いてるならはよ帰りたいやん」
と、それにスペインがそう答えると、フランスも、確かに、と、綺麗な蜂蜜色の髪をかきあげながら苦笑した。

そして、少し真顔になって、スペインの顔を覗きこむ。

「で?今日も夕食ダメ?」
低く優しく…それでいて少し色気のある声。

女性ならそんな声音で誘われたら、いちもにもなく付いて行ってしまいそうだが、男の…しかも悪友相手にそんな色気出してどないすんねん、と、スペインは秘かに思う。

これはもうフランスのスタンダードなのだろうが…。
まあ、心配してくれているのだろう。

確かに子猫のアーサーがいなくなってからの自分は酷い有様だったと自分でも思う。
あんなに辛い思いをしたのは本当に久々だった。

今は…不安と希望が半々ずつ。
希望がなかった頃よりは悲しくはないが、希望が出てくると気持ちが揺れてつらい。

それでも心配そうに見守ってくれている悪友達にそれ以上心配かけないように、時間はあまりないが食事くらいは一緒しようか…そんな事を思って、会議資料を鞄に詰め込む手をふと休めた瞬間、今日一日スペインをイラつかせたあの声がまた、人が少なくなってきた会議室に響いた。


「ああっ!もう本当に君って反対のための反対しかしないよねっ!!
おかげで全然話が進まないじゃないかっ!!
君のためにみんなが迷惑してるってわからないのかいっ?!
だから世界中から嫌われるんだよっ!!!」

荒唐無稽な自分の意見を否定されたところで、反論できないまま中途半端に終わってイライラして、それを真っ先に異を唱えた元親に八つ当たっているのだろうが、本当に勘弁してほしい。

スペインだって今日はギリギリで精神のバランスを保っているのだ。
会議後まで子どもの癇癪など聞きたくはない。

…まったく…。まだやっとるんかい。
そんな風に公私のけじめつけんからガキやって思われとるのに……

と、苦々しい思いでそちらにチラリと目をやると、ちょうど背を向けている超大国の向こう側にイギリスが見える。

相変わらずぶっとい眉やなぁ…と、まじまじとその顔を眺めていると、

――嫌われる…
という一言で大きなまるい目が揺れた。

それは口よりよほど雄弁に気持ちを語っているように思える。

愛しい愛猫アーサーと同じ、大きくまるい、澄んだグリーンアイ……。
そうだ、アーサーも自分が何気なく言ったその一言でミルクを飲まなくなったのだった。
その時の事を思い出して、なんだか胸がきゅぅっと痛くなった。

あの時、何も反応もなく何も飲まないまま、何か傷ついたような諦めたような、何とも言えない悲しい顔をしていたスペインの可愛い可愛い金色子猫と同じ目をしている……。

そう思ったら、自然に体が動いていた。


 Before <<<    >>> Next






0 件のコメント :

コメントを投稿