…まぁ~お………
そこは一面真っ白な空間だった。
何故?ここは?…と、そんな普通思うような事はどうでも良かった。
スペインにとって大切だったのは、そこから聞こえる小さな鳴き声だけだった。
親分めちゃ心配したんやでっ!!」
その声の方へ駆け寄ると、そこには愛しい愛しい金色の子猫。
何事もなかったかのようにつぶらな丸い瞳でスペインを見上げている。
「自分、ほんま何やっとったんっ!!
ああ、もう何でもええわっ!戻ってきてくれたんなら、何でもええっ!!」
と、その小さな体を抱き上げると、スペインは泣きながら潰さないようにソッと抱きしめた。
子猫特有の高めの体温と柔らかい感触。
そして…ミルクと花の良い香り。
ああ、この子だ。
押し寄せる安堵と多幸感に止まらない涙を、小さなざらりとした子猫の舌がぺろぺろとなめとっていく。
「ああ、もう、くすぐったいわ」
と、クスクス笑い出すスペインの頬を子猫はぺしぺしと柔らかい前足で叩きながら、また一声、ま~お、と可愛らしく鳴いた。
――あのな、何も言わずにいなくなったりして悪かった。
と、そこで急に頭の中に響いてくる声。
え?と、スペインは声の主を探してきょろきょろあたりを見回すが、この空間には自分と子猫しかいない。見えない。
――俺だよ、俺。お前の頭に話かけてる。
え?え?と思っているスペインの顔を、子猫はぺしぺしとまた叩いて、ま~お、と鳴いた。
そこでスペインもようやく気づく。
「自分…アーサーなん?今話しとるん」
――他に誰がいるんだよっ
という脳内の声とはもる、ま~おという鳴き声。
脳内に語り掛ける猫っ?!と、普通は気味悪がるなりなんなりするところだが、そこはスペイン、全く動じず…いや、正確には驚喜して、
「なんやっ!意思の疎通できるんかっ!
自分やっぱりすごい子ぉやっ!さすが親分の子猫やっ!!」
と、子猫を抱く手を頭上に伸ばし、いわゆる高い高いの状態でクルクル回った。
――や~め~ろ~~!!目が回るっ!!!
マ~オ、マオマ~オっ!!!
と、子猫は手の中でジタバタジタバタ暴れだす。
「あ、堪忍な」
と、そこでようやくスペインは回るのをやめた。
そしてきゅうぅっと目を回してへばっている姿も可愛らしい子猫を自分の顔の高さまでおろすと、その鼻先にチュッと口付けた。
――お前……話できないだろおぉ……
小さな手足をだら~んとさせて、ぐったりと言う子猫に、スペインはクスクス笑いながら
「堪忍、堪忍、親分つい嬉しくて回ってもうた。で?話って?」
と、また今度は小さな額に口付ける。
ふんわりとした柔らかさが気持ちよくて、そのまま頬ずりをすると、子猫は調子に乗るなとばかりに、まおっ!と鳴いてぺしっと前足でアントーニョの顔をはたいた。
いつものやりとりに心の底から安心感が湧いてくる。
しかし次に子猫から出た言葉は、その幸せを根底から覆すものだった。
――えと初めに言っておくな。今のこの状況、お前の夢の中だから。一応猫とは言え、挨拶もせずに消えるのも悪いと思ってな。
「はあ??」
――だから、俺はお前の夢の中に来て、お前に話かけてるんだ。
「ええっと……」
突拍子のない話で頭がついて行かない。
ただ一つだけ思ったのは……
「つまり…親分が眼を覚ましたらアーサー、また消えてまうん?」
そう、それが重要だ。
というか、それ以外はどうでもいい。
「もしそうなんやったら、もう親分ずっと寝とるわっ!
自分と一緒に夢の国に住んだるっ!!」
スペインがまた涙目でぎゅうっと潰しそうな勢いで子猫を抱きしめると、子猫はマオマオ鳴きながら、腕の中でバタバタと暴れた。
――ばかぁ!離せっ!苦しいだろぉ!!!潰れるっっ!!!!死ぬぅぅ~~!!!!
との訴えも完全にスルーして、スペインは子猫を抱きしめて泣きわめいた。
「嫌やっ!!ようやく会えたんに、またどっか行ってまうなんて嫌やっ!!
また居らんくなられるくらいやったら、このままここで一緒に死んだるっ!!」
――お前、馬鹿か~!!!
「他人様に馬鹿言ったらあかんっ!!アホ言えやっ!!!」
――そういう問題じゃないだろぉぉ~~!!!!
死ぬっ!本気で死ぬっ!抱きつぶされるっ!!!
一応夢とはいっても精神を飛ばしているのだ。
ここで死んだら現実でも少なからぬダメージを受ける。
――わかったっ!わかったからっ!!!
そう言うより選択肢はなかった。
必死にすがりつく太陽の国の腕の強さには、某元養い子の『反対意見は認めないんだぞっ♪』という言葉よりよほどの決意の強さを感じる。
出来る出来ないじゃなくて、やるしかない、といった感じだ。
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