親分と子猫3

自宅を出てからスペインはずっと携帯を握りしめていた。
会議中でさえ、いつものように内職をすることもなく、バイブレーション機能は当然つけて、着信音も最大にした状態の携帯を握りしめ続けている。

待っているのはロマーノからの電話。

――金色の毛とグリーンアイのめちゃくちゃ可愛い子猫が家の前をウロウロしてたぞ、コノヤロー。

と、言う報告のみだ。


その電話がかかってきたら、もう会議なんて出ている場合じゃない。
一足飛びに空港へ走って即帰宅である。

あの小さく柔らかい身体を抱き上げて、ミルクと花の香りのするふわふわの金色の毛並みに顔をうずめて頬ずりをするのだ。

あまりにべたべたしすぎると、またマオマオ鳴きながら前足でパフパフぶたれるかもしれないが、構いやしない。

自分をこれだけ心配させたアーサーが悪いのだ。
少しくらいは我慢してもらおう。

泣きそうな気分でそんな事を考えながら、鳴らない携帯を握りしめ続けているうちに一日目の会議が終わってしまった。

終了後、イタリアが夕食に誘ってくれたが、断ってホテルへ直行する。
いつもなら有頂天になるほど嬉しい誘いだが、今日はさすがにそんな気分ではない。

帰り際に、絶対に食べろよっ!とプロイセンが念押しをして渡してきた袋の中身はサンドイッチ。
一人戻ったホテルの部屋でそれを頬張りながら、スペインはまた涙を流した。

自分がこんなに寂しく悲しい思いをしているのに、アーサーは一体どこに行ってしまったのだろう。

「…毎朝顔の上で足踏みしても構わへん…。
親分が何かしてしもうたんやったら、いくらでも謝ったるから帰ってきてや……」

ふわふわの金色の毛並みに綺麗なグリーンアイ、そして目の上だけ少し残念な感じのする濃い茶の太すぎるまゆげのような毛をした、やんちゃで…でも誰より可愛いスペインの子猫。

あの子じゃないとダメなのだ。
他の猫も犬も馬も牛も何もかも要らない。

「帰ってきてやぁー……」

スペインは泣きながらベッドの上につっぷした。



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