可愛い可愛い愛猫アーサーがいなくなって1週間…。
ロマーノ、ベルギー、フランス、プロイセンなどが交互に泊まって無理にでも勧めてくるため食事だけは水と共に流し込むように取っているが、全く味がしない…。
眠ってしまえば、あの子が帰って来ても気づかずに、そのまままたどこかに行ってしまうかもしれない…そう思うと眠る気にもならず、無理にベッドに放り込まれても、意識が冴えてしまってよく眠れない。
これだけはサボるわけにも行かず、悪友二人に両端から抱えられるようにして、会場になっているベルリンへ来た。
もちろんあの子がいつ戻ってきても大丈夫なように、自宅にはロマーノに残ってもらっている。
あまりに憔悴したスペインを心配して、プロイセンがドイツを通して今日のスペインの席をイタリアの隣にしてもらったが、普段あれだけイタリアにはデレデレと相好を崩すスペインが、全く興味を示さない。
逆にやつれた様子でため息しかつかないスペインをイタリアが心配するくらいである。
そして…そのスペインのやつれた様子を気にする人間がもう一人……。
スペインのもう片方の隣、フランスのさらに隣で、オリーブグリーンの目がチラチラとスペインの様子をうかがっている。
腐れ縁だけあってその行動も言いたいこともすっかり察しているフランスは、会議の休憩時間になると、黙ってイギリスの腕を掴んで立ち上がった。
普段だとそんなことをしようものなら、きめえっ!離せ!!と、鉄拳もしくは足蹴りが飛んでくるところであるが、イギリスの方もフランスが自分の要求を理解した上で取っている行動だというのは察している。
なので、黙ってフランスに促されるまま廊下へ出た。
「で?あれはどうしたんだ?いつも能天気な奴が気味悪ぃ。天変地異の前触れか?」
と、今更取り繕うように前置きから入る必要もないとばかりに、イギリスがチラリと今出てきたばかりの会議室のドアに視線を向けると、フランスははぁ~と大きく息を吐き出した。
「うん、お前ら仲が悪いのはよくわかってるけど、今回だけはやめたげてね」
と口にした瞬間、ガン!とフランスのすぐ横の壁に蹴りが入る。
「…そんな事は聞いてねえ」
ニコリと上から凶悪な目で笑みを浮かべられて、フランスは、もうやだ、この子、と涙した。
しかしまあ、そんな乱暴者でも愛しい者を失った心の痛みは誰よりもわかっている国だ。
事情を知ったからと言って、いたずらに相手を傷つけたりはしまい。
そのあたりの信頼感から、フランスは
「実はね……」
と今回愛猫が消えてからのスペインの様子について語り始めた。
「つまり…飼ってた子猫が消えちまったのが原因なのか…」
全てを大人しく聞いていたイギリスは、フランスが話し終わるとそう確認をした。
「うん。前回の世界会議の後に拾って、それからめちゃくちゃ可愛がってたのよ。
うちだけじゃなくぷーちゃんやロマーノのところにも毎日子猫が可愛いメール送ってくるくらいにね。もうべったべったに惚れ込んでた子で…」
と頬に片手を当てて困ったようなため息をつくフランスの言葉を、イギリスは
「粘着質っぷりが変態くさいな」
と一刀両断切って捨てる。
なまじ腐れ縁でお互いがお互いをわかりすぎているところがあるため、今回の猫騒動の当事者がまさに自分だと気づかれると面倒だと、あえてそんな言い方をしてみるが、フランスも巻き込まれて渦中の人間になって長く疲れているせいか、幸いなことに気づいた様子は全くない。
もちろん、いくら不思議国家慣れしているフランスにしたって、そうそうそんなありえない事まで想像がつくわけはないのであるが…。
ああ、ホント仲悪いぼっちゃんからしたらそうかもしれないけど……と呟きつつ
「とにかくこの件については不用意に触れないであげてね。」
と、切り上げようとすると、フランスからすると、単に若干の好奇心と会議への影響への懸念から聞いただけで理由を知ったら興味を失うと思っていたイギリスはまだ興味を失う様子を見せず
「……他の子猫を飼ったらいいんじゃねえか?」
と、話を続けた。
ああ、やっぱりそういう痛みを知っているだけに、坊ちゃんも大事な者を失って傷ついている相手には優しいな…と、フランスは少し安心する。
「うん、それも考えたんだけどね。実際に里親探してた子猫とか連れて行ってみたけど、全然だめ。
連れて行った子もすごく可愛い子だったんだけど…そのいなくなった子じゃないとダメらしいのよ。
まあ、急に消えちゃって今どうしてるかもわからなくて心配っていうのもあるんだろうけど……」
「…ああ、なるほど。所在がわからないから諦めきれないってやつか」
「それだけじゃなさそうだけどね」
と、言ったフランスの言葉は、顎に手を当てて考え込むイギリスには届いていないようだ。
しかしまあ…諜報活動が盛んなお国柄である。
もしかしたら不思議国家の不思議な力も含めた色々な方法で見つけ出すなんてことも考えてくれているのかもしれない。
そんな淡い期待を抱いているうちに休憩時間も終わったので、フランスはイギリスを促して会議へと戻っていった。
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