朝…目が覚めたら隣に寝ていたはずのアーサーがいなかった。
もしかして足元にでも移動したのかと思いブランケットをはぐが、ベッドの上にはいない。
では自分の寝床に戻った?
そう思って慌てて猫用ベッドを覗くがそこにもいない。
窓もドアも閉めてあってこの部屋以外に出ることはできないので、ベッドの下、箪笥のかげ、カーテンの後ろなど、隠れられそうなところを全部探したが、子猫の姿はない。
一気に眠気などふっとんだ。
狂ったように部屋中をひっくり返しても子猫は見つからない。
もしかしたら…と、一応ほかの部屋も庭までも全部探し回ったがいない。
何故?!いったいどこに?!!
朝も朝の軽食も昼も夕食も夜食も取らず、シェスタもせず、スペインは一日中必死に子猫を探し回ったが、子猫の姿は忽然と消えたまま、影も形もみつからなかった。
「嘘や…こんなん嘘や……アーサー、どこ行ってもうたん…」
庭や倉庫まできっちり探して頭に蜘蛛の巣やら葉っぱをつけたまま、スペインはフラフラと玄関にへたり込んだ。
可愛い可愛いあの子猫がどこかへ消えてしまった…それだけで自分は世界で一番不幸な気がした。
何もやる気が起きず、その夜はそこでへたり込んだまま泣いて過ごす。
最後の夜…珍しく自分のベッドにあがってきたのは、何かの予兆だったのだろうか…。
こうして消えてしまう事の?
何故自分はあの時普段と違うアーサーを前に呑気に寝てしまったのだろう。
後悔しても後悔しても後悔しきれず、翌日もずっとその場でへたりこんで泣いているスペインを発見したのはロマーノだ。
前日毎日うっとおしいほど送ってきたメールがこなくて気になって電話をかけても出ないので実際足を運んでみたら、訪ね先の元宗主国は驚いた事に蜘蛛の巣やらなんやらを盛大につけた酷い格好のまま、玄関で泣いている。
自分がイタリアの独立でスペイン宅を出て国へ帰った時ですら笑顔で送り出してくれた男がこんなボロボロに泣いているのをみるのは初めてでロマーノは大いに戸惑ったが、とりあえず、と、事情を聞いてみると、先日からスペインが毎日自慢メールを送ってきた子猫が急にいなくなっただけらしく、何事が起きたかと思っていたロマーノは力が抜けてがっくりとその場にしゃがみこんだ。
俺は子猫以下だったのかよ…とチラリと思うものの、『あの子まだ子猫やねん。一人で生きて行かれへんし、死んでもうたらどないしよ』と泣くスペインに、ああ、こいつはそういう男だったと、思い直した。
結局自分が独立した時にはもうスペインの手で面倒を見てもらわないでもいいくらいには成長していたのだ。
でも今回は違う。
まだミルクを飲んでいるような子猫だ。
助けてくれる人の手がないと生きていけない。
可愛いと思える相手であるのはもちろんの事だが、自分の手が必要だという要素のある相手に対するスペインの執着は強い。
「仕方ねえ。俺も探してやっから、写真か何かねえのか?」
よいしょっと立ち上がったロマーノが言うと、スペインはそこで初めて気づいて首を横に振った。
そういえばあんなに可愛がっていたのに、写真の一枚も撮っていなかった。
だって撮る必要がなかったのだ。
今まで自分の手の内にいた子どもたちは皆国で、いつかは離れて行ってしまうという事はわかっていたし、覚悟もして、その時がきたら心を慰めようと肖像画くらいは描かせていた。
でもあの子猫はずっと自分の側にいるはずの子だったのだ。
もちろん国である自分達よりは寿命がかなり短いが、大人になって年を取るまではいなくなる心配なんてしないでいいはずだった。
なのに…何故きえてしまったのか……
そう思ったらまた悲しくなって泣き始めたスペインに、ロマーノは最初少し戸惑って、結局、黒かろうと白かろうと家の中にいきなり余所の猫が入ってくることもないだろうし、室内に子猫がいたら、そいつなのだろうと、家の中を探し始めたが、子猫はどこにも見当たらなかった。
その後…どう探してもいないので、ボロボロのスペインを立たせると、シャワールームに押し込めてキッチンへこもり、どうせ子猫が消えてから何も食べていないであろうスペインのために食事を作る。
そして…ふと思いついてメール。
『美食の国のイタリア様が手料理ごちそうしてやるから、急いでスペイン家まで来い!』
それをスペインの悪友二人と元家族であるオランダとベルギーに送る。
そうしてその日のうちに勢ぞろいした全員で、今度は狭くはないスペインの庭も含めて子猫の大捜索が行われたが、やっぱり子猫は見当たらず、会議の日までの七日間、みんなが交代で傷心のスペイン宅に泊まり込むことになったのだった。
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