可愛い愛しい子猫ちゃん7

つれない行動の裏がわかってしまえばアーサーは大変可愛らしい。

家が変わって少し心細いのか、スペインの後ろをとてとて付いてきて、しかしスペインが振り向くと、パッとそっぽを向く。

じゃあ付いてこれない所まで行ったらどうなるのか。

幸い本宅は2階もあるので、アーサーを1階に残して階段をあがって2階に行ってみた。
そしてこそりと階下を覗くと、子猫は階段の下にちんまり座ってフルフルしている。

ああ、親分の事待っとるんや、可愛え…と、悶えていると、やがて危なっかしい様子でなんとか階段を一段、二段と上がったが、五段目で力尽きたらしい。
諦めて降りようとしたものの、今度はのぼったは良いが降りれなくなったらしく、階段から下の段に前足を伸ばして引っ込め、伸ばして引っ込めし始めた。

あ、あかん!可愛えぇぇ~~!!!!!
必死に声を抑えて笑うスペイン。

だがアーサーにとっては真剣な問題だ。
やがて降りるのも諦めてしまったらしい。
五段目で身を固くしてフルフルしている。

その様子にスペインの庇護欲がきゅんきゅん刺激された。
可愛いがこのままでは可哀想なので、さも上での用事が終わりましたと言った風に階段に姿を現すと、アーサーが声もなくまんまるの目で何かを訴えるようにスペインを見上げてくる。

かっわ可愛ええ、うちの子可愛すぎやああ~~!!!
もう心臓がバクバクする勢いで可愛くて愛おしい。

「親分の事迎えに来てくれたん?一人置いてって堪忍なあ」
と、抱き上げてその小さな顔を自分の顔の正面に持ってくると、子猫は一瞬ふるりと震えた後、

マオ、マオマオマオ~~!
と、何か不安だった気持ちを訴えるようにすごい勢いで鳴き始めた。
そんな可愛らしい様子を見せられたら、もうメロメロだ。

「あ~、堪忍っ!ほんま親分が全部悪かったやんな!」
と、子猫に頬ずりをして、ちゅっちゅとキスを落とす。

可愛くて可愛くて、アーサーを文字通り猫かわいがりをするようになったスペインは、自宅のみならず、国体同士で簡単な話をする鍵付きツイッターで、自分の愛猫がいかに可愛らしいかについて熱弁をふるって、

『ここは一応国に関して語るところだからな。
ペットの話は別の場所でやれ』
と、ドイツに渋い顔をされた。


そこで今度は悪友とロマーノにメールで語る。
うちの子ほんま世界一可愛えっ…と、毎日の猫の様子を延々と送り、人間の女性派のフランスとロマーノ、犬派のプロイセンを辟易とさせた。

「もう、みんなわかってへん。
自分の事間近でみたら、きっと可愛さにのたうち回る事うけあいやんな~」

悪友と子分から芳しくない返事メールをもらって唇を尖らせながら、それでもちゅっちゅと子猫にキスを落とすスペイン。

ああ、そういえば次の世界会議がもうすぐだ。
その時に連れて行って会わせてやろう…。
そう思いつけば、普段は面倒な会議の支度も楽しい気がしてきた。

そして世界会議まであと一週間。
悪友と子分には可愛い可愛い愛猫を見せてやるというメールは送った。

さあ、明日も頑張ろう!
スペインはアーサーにキスを落として猫用ベッドに入れて、自分もベッドに入って電気を消したが、すぐ下のほうで、ま~お…と鳴き声が聞こえて、身を起こした。

ベッドわきのサイドテーブルの上のライトをつけて床を見ると、ベッドのすぐそばの床でアーサーが鳴いている。

「どないしたん?寂しいん?今日は一緒に寝よか」

うっかりそんな言い方をして抱き上げても、抵抗する様子もない。
スペインが自分のベッドにおろして横たわると、アーサーはムクリとブランケットをおしあげて、スペインの懐に潜り込んできた。


ああ…あったか…。

高い体温とミルクの匂い。
ぺろりと小さなざらりとした舌で頬を舐められて、
「ああ、お休みのキスしてくれたん。じゃ、親分からも~」
と、小さくその鼻先に口付けると、おやすみ~と言って幸せな気分でライトを消した。
その時は思ってもみなかったのだ。

それが子猫との最後の別れとなるなんてことは……。







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