ぐったりと籠の中で丸まっているアーサーを前に思い出すのは、いつものように自分の顔の上で行進していたアーサーの元気な姿。
こんな風になるくらいなら、顔を踏まれるくらいどうということはなかったのではないか…。
何故あんな風に払いのけたり嫌味を言ったりしたのだろう…。
指先で金色の頭を撫でると、いつもなら嫌そうに足が出てくるのだが、今はもう振り払う元気もないのか、全く反応しない。
それも悲しくて、スペインはまた泣いた。
「朝は堪忍なぁ。可愛ない、嫌われるなんて嘘やで。
自分めっちゃ可愛えわ。金色のふわふわの毛ぇも、キャンディみたいに澄んだまんまるのおっきな緑の目ぇも、やんちゃな性格も…全部全部めっちゃ可愛え。
居てくれるんが当たり前になってて、親分めっちゃひどい事言って酷い事してもうたやんな。堪忍な。
お願いやから元気になったって。死なんといてな」
ボロボロ泣きながら頭から額あたりを指先でゆっくりなでると、子猫は眠そうに瞬きをしたあと、ゆっくり目を閉じる。
そして…それまでは全くそんなこともなかったのに、ゴロゴロと喉を鳴らした。
「自分、撫でられると気持ちええん?」
泣きながらもクスリと笑うスペイン。
「ああ…自分めっちゃ可愛えなぁ」
と思わずつぶやいて、小さな額にそっと口づけを落とした。
それから子猫は眠ってしまったが、スペインは眠れない。
前日もあまり眠れなくて、今日はアーサーがこんな状態でシェスタをする時間もなかったので、本当だったら眠いはずなのだが、『一晩で容態が急変する可能性も』などと言われると、怖くて眠気もおきない。
籠から布団代わりのタオルごとアーサーを抱き上げて、ずっと膝の上に乗せてその小さな頭や背中を撫で続ける。
餌を口にしないだけで特に苦しそうでないのが唯一の救いだ。
こうして眠れぬ夜が明け、朝の光が差し込んでくると、子猫がぱちりと目を覚ました。
つぶらなオリーブグリーンの瞳でスペインを見上げると、マ~オと一声。
一晩中そっと子猫を撫でていたスペインの指先に、スリッと頭をすりよせる。
「…っ!!!!!」
か、かっわ、かわええええっ!!!!!
スペインはそれに声にならない悲鳴をあげた。
ま~お、ま~お
スペインが可愛らしさに悶えている間もアーサーは可愛らしい声で鳴きながら、ふさふさのしっぽをピンとたててすり寄ってくる。
ああ、もうあかん。
鼻血がでそうだ。
「ちょお、待っとってな。ミルクもってくるさかい」
すぐ戻るからな、と、一応声をかけたうえでそっとタオルごとアーサーをソファにおろすと、スペインは急いでキッチンへ向かった。
今ならミルクを飲んでくれるかもしれない…と、そう思ったのは正解で、ミルク皿を持ってきて床に置いて子猫を床におろしてやると、子猫は昨日のはなんだったのかと思う勢いでミルク皿に顔を突っ込んでぺちゃぺちゃと舐め始めた。
「美味いか?アーサー。」
と、その様子にホッとするスペイン。
思わず顔を綻ばせてまた指先で頭を撫でると、食事中は嫌だったのかパシっといつものようにはたかれたが、それさえ嬉しくて、スペインは笑った。
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