リビングを出て玄関の方へと戻るとエントランスのようになっていて、そこに凝った装飾の手すりのついた螺旋階段がある。
状況を把握したところで一刻も早くここを出たいが、そのためだとしても、どう考えても悪意と危険が充満しているようなこの屋敷で、さらにその密度が濃いような場所に誰だって近寄りたくはない。
「…あれ…なんの血だろう?まさか人間の…なんて事はないよね?」
年上の威厳もなんのその、びくびくと黒井の後ろに隠れるように階段をのぼりながら、水木はさきほどあれを本物の血だと断言したアントーニョの方にちらりと問うような視線を送るが、アントーニョは抱え込むようにアーサーの肩に手をやり、前方、後方へと注意を向けているので返事はない。
しかし完全にスルーして緊張感に耐えられなくなった水木に何か暴走されても面倒だ。
ギルベルトは小さく息を吐き出して
「そう願いたいな。
まあ血と言うのは匂いその他でわかっても、それ以上は俺らには誰にもわかんねえだろ」
と、答えておいた。
以前…エンリケが黒魔術もどきに使っていたのは猫の血だった。
今回もそうだといいのだが…というか、多少はしっかりしているとは言ってもギルベルトだって普通の高校生だ。
殺人事件になんて関わりたくはないし、人間の遺体なんてみたいはずもない。
「まさか人間の血ぃは使いはらへんのちゃいますか?
傷害や殺人になってまうし…」
人を一人背負って階段をのぼっても息も切らせずに、ははっ…と苦い笑いを浮かべながら言う黒井に
「でも…すでに殺人未遂なら起こってるわけだし…」
と青ざめる水木。
「まあ…人間の血液というだけなら、普通に輸血とかで集められた血をどうにかして入手することもできますよね」
と、そこで二人の間を取るようにしっかりとクマ次郎を抱えたマシューが言うと、ああ、そういう方法もあったか…と、皆一様にうなづいた。
それは意識してそう装っているのだろう、マシューのふわわんとした話し方で言われると、なんとなく事態がそう最悪でもないのでは?と錯覚して安心する。
だが…相手がエンリケなのだとすると、これで終わるはずもなく、また何か起こる気がしてギルベルトは憂鬱な気分になった。
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