続恋人様は駆け込み寺【白雪姫の継母は毒林檎を差し出し赤の女王は首を刎ねろと叫ぶ】5

「で?他に気づいた事は?」

窓の向こうはもう外の景色など見えないくらいの土砂降りで、それでも何か考えこむようにぼ~っと外に視線を向けながら聞くマシュー。

「今回の黒幕の企みは一応失敗した…ということになるんでしょうけど、今後どうなると思います?」

そんな事を聞かれたってギルベルトに分かるはずもない。

ただ1つ言えるのは……

「まあ幼稚園時代から10年以上もアーサーに粘着し続けてきたような奴だ。
一度失敗したくれえじゃ諦めないだろうな。

だから…まあ目的達成するまでは主催からは迎えは来ないだろう。
加瀬兄弟が一般高校生と戯れるイベントと言いつつ、客船内では撮影らしい撮影行ってなかったしな。
普通なら演奏会前でも前日の様子…みたいに映像撮るだろ。
てことで主催は十中八九、犯人とグルだ」

「ああ、そこには気づいてたんですね、やっぱり」
と、当たり前に言いつつ、マシューは手持ち無沙汰にクマ次郎の耳をいじりながら、
「じゃあ僕の側の情報も明かしますかね」
と、驚くべき事実を口にした。


「まず…盗聴器はたくさん仕掛けて何かの拍子に見つかりたくないんでしょう。
家具ではなく人に取り付けてあります。
誰かというと、まあ、さっきあなたが犯人だと言った人物です。
だから彼から離れてさらに唇を読まれないように彼に背を向けていれば、会話が漏れる事はありません」

今みたいに…ね?と、相変わらず窓の側を向いたままいたずらっぽく笑うマシュー。
唇を読まれないように…という気遣いはギルベルトにもあったが、盗聴器は失念していた。

そういえばその手の物は過去エンリケはすでに使っているし大好きじゃないか…と、冷やりと背中に冷たい汗をかく。
まあ…使われて無くて良かった。

……が?

「ああ、クマ次郎さんの中にね、探知機が組み込んであるんです」
不思議そうな顔のギルベルトが尋ねる前に、マシューは愛おしげにクマ次郎の頭を撫でた。

マジか…とギルベルトは思うが、逆に他の人間もおそらくそんなこととは気づいてはいないだろう。
そもそもが、ギルベルトの側でも犯人の側でもない、完全な第三者であるはずのマシューがそんな用意周到な状態で今回のイベントに臨んでいるとは誰も思いもしない。

だからこそ、これは大きい。

「とりあえずでも、館の探索をしたほうがいいかもな。
ここが孤島だとしたら、なんらかの方法で外への連絡が取れる手段がどこかに用意されてるはずだ」

「そうですね…。まあでもその前になんとか敵をあぶりだしたいところではありますが…。
何度もこんなことが起こっても嫌ですし」

それはそうだが…しかしとりあえずアーサー達だけでも安全圏に脱出させたい。
そんなギルベルトの心のうちは当然マシューにも分かる。

「僕も…他はどうでもいいけどアーサーさんだけはさっさと脱出させたいんですけどね。
でも今アーサーさんが抜けて離れれば、味方がいない中で孤立させることになりますからね。
黒幕がその間に手を伸ばさないとも限らないので…。

ついでに言うなら…まあいざとなった時の肉壁になれる相手は多い方がいいので、あなたやフランシスさんは生きて側に居た方が便利ですし、アーサーさんが好きである以上、アントーニョさんの身柄の安全は確保しないといけませんしね」

と、たんたんと可愛らしい笑みまで浮かべながらえげつないセリフの数々を吐いてくれるマシューに、さすがのギルベルトも額に汗をかく。

青年のアーサーに対する執着も大したものだと思いながらも、脳裏をよぎるもう一人のアーサーに執着する男を思い出して、ふと聞いてみた。

「アーサーが…自分よりもトーニョを好きでもいいのか」

そう…これは重要だ。
まあなんのかんの言って、最初にエンリケを退けられたのは、エンリケが画策しつつも、完全に周りを騙しきるほどには周到な人間ではなかったからだ。
今ざ~っと話しただけだが、マシューのような人間を敵に回すのは正直キツイ。

しかしながら、マシューからは
「あなたが信じるかどうかは別にして…僕はアーサーさんが幸せなら自分を含めて他はどうでもいいんですよ」
と、非常にシンプルな答えが返ってきた。

「アーサーさんが犯罪者レベルの相手に粘着されていなければ日本に来ようなんて思ってませんでしたし。
相手があまりな人間なら考えますが、アントーニョさんは僕の眼から見ても総帥であるお祖父様に似てますから。

勉強的に馬鹿でも必要なモノをつかみとる能力には長けてるんだと思います。
それが完全に素かは知りませんが、一応必要な場では明るく社交的にふるまえて、人脈も作れる人みたいですし。
だからアーサーさんを任せても大丈夫かな?とは思ってますよ。

まあ…僕が日本にいるうちに、もう少しお利口になって欲しいので、少しつついては見ますが」

一見ほわほわっとした笑顔が怖い。
そうか…恋人候補…というより、すさまじいブラコン小姑と考えるのが正しいのか…。

トーニョ、ご愁傷様だ…と、ギルベルトは心の中で合掌した。
ある意味エンリケより手強い相手だと思う。




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