「とりあえず…今回の目的な、俺様に対する嫌がらせだと思う…。」
何から話そうか…とギルベルトは一瞬悩んだが、結局順を追って話すことにした。
「まずはこれ見てくれ」
と、マシューに差し出したのは自分の携帯のメールである。
そう、つい先頃届いたあれだ。
…絶対…裏切り者ともども絶対に…悪魔に身を売ってでも呪ってやるわ。…覚悟しとき…】…ねぇ……。
なるほど、ずいぶん恨まれたものですね」
と、その文面にさして驚く様子もなく、むしろ面白そうに好奇心に満ちた目を向けるマシューに、ギルベルトは困ったような顔をする。
「まあな。送り主はエンリケ。トーニョの従兄弟…っつ~ことは…」
「カエサル財閥の総帥の孫の一人…ということですよね」
「そそ。こいつがガキの頃にアーサーに一目惚れ?っつ~感じらしくて、近頃はもうストーカーだったわけなんだな。
アーサーは元々トーニョが好きで、トーニョに似た顔のこいつを邪険に出来ずにいるうちにもう病的な粘着をされ始めて、困り切ってたところに手を差し伸べたのが当のトーニョだったんだ。
で、フランはアーサーとは従兄弟、俺様もアーサーとは委員会とかで旧知の仲で、二人共トーニョとも長い付き合いだったから、アーサーを助けるのに協力することになった。
トーニョは主にアーサーの身柄の保護とメンタルのケア、フランシスは情報収集と周りへの根回し、で、俺様は主にエンリケと対峙するって役回りだったんだけどな…」
「なるほど、それであなたの所に主に恨みが集中したというわけですね」
「ま、そういうことだ。
何故…と言われると困るんだが、どうも今回のってエンリケ臭がプンプンすんだよ。
なんていうか…俺様が言うのもなんだけど、無駄に中二病くさいというか、回りくどいというか…まあ…あれだ、その前のあいつらの従兄弟のロヴィーノから来たメールに添付してある写真を見てもらえれば…」
まあ…それは見た時にフランシスとアーサーは吐いたというシロモノなわけだが、マシューはほんのわずか眉をひそめはしたものの
「まあ…どういう人物かは資料としては読んでましたが…」
と、言うに留める。
「そんな感じでな、とにかく俺様恨み買ってるから。
なんとなく…だけど、直接殴りたいというより陥れて精神的に追い詰めたいと思われてるような気がすんだ。
で、今回に関して言えば、俺様を殺したいというより、俺様を犯人として祭りあげたいとか…な。
それこそさっきのトーニョの話じゃねえけど、自分が手を下すというより善良な一般人から殺人鬼として散々罵られてなぶり殺しにさせたいとか、そんな感じか。
ま、それが前提で話を進めるな。
まずあんたが見つけた小麦粉を見て英二が動揺してたのは、これはあとでフランに確認取ればはっきりすると思うけど、英二は小麦粉アレルギーなんだと思う。
それでまあなんとなく辻褄があったというか…誰が毒入れたかわかったんだけどな」
「…はあ…。まあ可能性としてはそうですね。
英一さんはいつも英二さんにああいう態度取られてましたし、隙あれば英二さんを害したいと思ってたというのもわかりますし、英一さんが小麦粉持っている事に対しての英二さんの言動とかを見ればそうなんでしょう。
で?何故それで犯人が?」
マシューはコクン小首をかしげる。
そこでギルベルトは懐からペンとメモを出して整理し始めた。
「まずな、毒を入れられた可能性のある人物とその場面な」
1.キッチンでコーヒーを淹れる時:ギルベルト
2.キッチンでギルベルトが食器棚からクリープを出すのに後ろを向いている時:英一
3.リビングで緑のカップを手にした時:王
4.リビングで王とカップを交換したあと:英一
「これもあとでカップの残留物を調べればはっきりすると思うが、カップには毒物が2種類混入されている」
「え??」
「ああ、正確には1種類は特定の人物にとってのみ毒物になりうるモノ…だけどな」
と、その言葉で、驚きに目を見開いていたマシューは
「ああ、小麦粉ですね」
と頷いた。
「そそ。
殺人を企ててた奴は二人いるんだ。
一人は英一。
奴はまあ理由はとにかくとして、弟に殺意を抱いていた。
だから2のタイミングで弟にのみ毒薬となりうる”小麦粉”を緑のカップに混入したんだ。
そして…テトロが混入されたのは3のタイミング。
他のタイミングだと少量とはいっても溶け残って何か入っているのがわかっちまうからな。
どのカップにするかは、たぶん…犯人はあらかじめ英一に連絡を取って計画を練り、小麦粉を混入させるカップを指定していたんだと思う。
理由は…そうだな。仲間を忍び込ませておいて、そのカップを英二に勧めさせるとか、そんな感じか。
英二が小麦アレルギーだということは一般公開されてないし、英二に極々親しい人間、英一かフランくらいしか知らないから、仲間には動機がなく、言い逃れが出来るしな。
ところが誰が仲間かわからない英一は、別の人間がそのカップを手にしてそのまま英二に渡す気配がないから、カップを持っているのが無関係の第三者だと思い、しかたなくカップを取り戻して自分で英二に渡そうとした。
が、英二は別のカップを手にしてしまった。
そこで飽くまで交換を迫ればさすがに怪しまれる。
自分が入れたのはアレルギー持ちの英二には有害でも自分には無害な小麦粉だ。
だから英一はいったん英二殺害を諦めて、自分が小麦粉を入れたカップからコーヒーを飲んだんだ。
そう、英一はそこに自分以外が別の毒を混入しているなんて思いもしてなかったからな」
「…じゃあ…今回の犯人は……」
「ああ、最初にそのカップを手にして毒を入れ、英一がそれを取り返したタイミングで英一が英二にそれを渡す前に英二に別のカップを渡して英一が毒入りコーヒーを飲む状況を作り上げた人間だ。
そもそもが不自然だろ?
英二と親しいわけでもないのに、自分がカップ交換されてすぐ慌てて英二に別のカップを渡しに行くなんて行動はさ」
「…なるほど……」
マシューは片手をこめかみにあて、少し整理するように考えこむ。
「確かに…筋は通ってます。動機的にも各人の行動の理由もそれで辻褄が合うと思うのですが……」
「あ、証拠はねえから」
と、そこで言葉を切ったマシューが続ける前に、ギルベルトが言葉をかぶせた。
「だからな、事情がわかってて警戒できて、なおかつそれを周りに悟らせない協力者が欲しいんだよ。
まだこの館の事も裏に居る奴らの事もわかってねえ中で、証拠もない話をしても混乱するだけだし、下手したら逃げを打たれる」
「…賢明な判断だと思います……。」
コクンとマシューが頷いた。
「まあ…アーサーさんの護衛を自称する相手が、口先男じゃないことにはとりあえず安心しました」
と、ぬいぐるみを抱きしめながらにっこり微笑む顔は天使だが……いや、いいだろう。
別に味方だったら何でもいい。
不憫とか一人楽しすぎる男とか、もう何でも言われ慣れすぎてて今更だ。
「あれ?怒らないんですね?」
と、ちょっと残念そうに言うマシューに
「俺様、親しみやすく心が広い事で有名な超人気者で、色々言われ慣れてっからなっ!」
と、ケセセッとやけくそで笑うと、
「ああ、落とされ慣れてるんですね」
とトドメを刺されてギルベルトはガックリと肩を落とした。
「まあ、僕にしてもアーサーさんの幸せを守るための協力者は多いに越した事はありませんし。
いいでしょう、協力しますよ」
と、マシューはうなづいた。
そこでギルベルトはようやくホ~っと詰めていた息を吐き出した。
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