「まず毒の摂取はコーヒーからと仮定して…だ、全員口つけてるわけだから、たぶん入ってたのは英一のカップにだけだということだよな。
ということは…無差別に一人スケープゴートにあげたかったか、もしくは、誰かが特定の誰かに害意を持っていて混入したものと考えられる。
まあ動機はまだわかんねえからあとで。
俺は英一とキッチンでテーブルの上に置いてある10のカップとインスタントコーヒー、あとはガスコンロの上にヤカンに沸かしてある湯、あとは数袋のスナックをみつけたんだ。
その横に『どうぞお召し上がり下さい』って書いたカードが置いてあったんで、まあ飲み食いしてもいいものと判断した。
もちろん飲食物は全て未開封のものだった。
で、みんな腹減ってるだろうからって英一がスナックをこっちに持ってきたのは皆も知ってるところだ。
その間、俺は英一に頼まれてカップを全部一旦洗った上で、同じく洗ったスプーンで未開封のインスタントコーヒーを開封してコーヒーを淹れた。
…てことはだ、この段階では致死量になる量の毒がカップについていてもカップを洗っているから洗い流されるし、水、もしくは湯の方に毒が入っていたら全部のカップの中に入るから、1つのカップにだけ毒の混入というのは不可能だ。
キッチンは人が隠れられるような場所もないし誰か来れば俺が気づく。
ということで、この時点で混入出来るのは俺だけだ」
「それ…言ってしもうてええん?」
と黒井は苦笑するが、ギルベルトは
「まあ全ての可能性を提示しねえと意味ねえし」
と、答えて続けた。
「で、その後英一が戻ってきて一緒にワゴンにカップを乗せ、俺は戸棚にみつけたクリープを取るのに戸棚の方を振り返る。
この時は英一は混入可能だ」
「ふざけんなっ!!」
と、その言葉に英二が吠えるが、黒井が
「飽くまで可能か不可能かの話しとるだけですわ。
ギルベルトさんは自分かて可能やった言うてはるし」
と、まあまあとそれをなだめ、
「続けましょ。」
と、先をうながした。
「その後二人でリビングへ運び込む。
それぞれカップを取りに来たよな。
その時はドサクサに紛れて…というには、人目がありすぎて無理だと思う。
その後カップは王の手へ。
ここで大勢の視界から一旦カップが外れる。
つまり、毒の混入が可能になる」
と、そこで名が出た王が青くなった。
「ちょっと待って下さいっ。私がそのコーヒーを飲まなかったのは偶然ですよ?
私が犯人だとしたら、英一さんがカップを換えて欲しいと言い出さなかったら、自分が飲むコーヒーに毒物を入れた事になります。
アントーニョさんが毒の対処法を知っているというのも、さきほどまで誰も知らなかったことですし…」
身を乗り出して訴える王をギルベルトは軽く手で制して、
「落ち着いてくれ。今は黒井が言ったように、やったかやらないかじゃなく、出来たか出来なかったかだけを論じてるだけだから。
出来たのとやったのはまた別の話だから」
と、苦笑する。
そこで王は不承不承引き下がった。
「てことで、カップは再度英一の手に。これからは英一がずっと手にしてるから、英一以外は混入不可能。以上だ」
「…で?結局あれだろ?お前の他に毒を入れる事が出来た奴は、二人共自分が飲む可能性がある奴ってことは、もうお前に決定だろ?」
と、英二。
「ギルちゃん、自分で自分の首絞めたらあかんやん。」
と、アントーニョも可哀想なものを見る目で見る。
「う~ん…そうなんだよなぁ……」
とギルベルトは腕組みをして、それからチラリとマシューを見た。
「で…可能性をあげてみたんだけど、なんか気づいた事は?」
ふられてマシューは少し困った顔をして首を横に振るが、あ、でもそういえば…と、手の中から小さな包み紙を取り出した。
「これ…なんだと思います?さっき英一さんに人工呼吸した時に拾ったんですが…」
「どれ?」
と、ギルベルトはそれを受け取った。
「ちょ、それ毒なんじゃないですか?どうしてかわからないけど英一さんが自分で毒をいれたとか…」
と、水木が言うのを押しのけて、アントーニョがその紙に残った粉を指ですくってペロリと舐めた。
「うあああ~~!!!!」
一同その行動に悲鳴を上げる。
「トーニョッ!すぐ吐き出せっ!!」
と泣きそうにすがるアーサーに、アントーニョはなんでもないように笑ってみせた。
「ああ、このくらいならほんまの毒でも平気やで?
毒やったらちょおピリッとするかな~と思うて舐めてみてんけど、これちゃうわ。
ただの小麦粉や」
「は?」
「フラン、ちょお来てみ?」
と、そこでアントーニョは有無を言わさずフランシスの腕を掴んで引き寄せると、鼻をつまんで口をあけさせ、思い切り紙に擦りつけて残った粉をつけた指をその口に突っ込んだ。
「ひいぃぃぃ~!!!!!」
と、悲鳴を上げるフランシス。
「ちょ、トーニョ何すんのっ?!何すんのよっ?!!」
フランシスが慌てて自分の飲んでいたコーヒーに伸ばした手を掴んで止めさせて、アントーニョは、まあ落ち着き、と、言った。
「俺かて舐めたから大丈夫や。自分の舌やったらわかるやろ?小麦粉やって」
言われてみれば…と、少し落ち着いて味わってみれば、確かに小麦粉である。
「…ああ…そうだね。でもなんで小麦粉……」
と、ホッとして肩をなでおろしてフランシスはそう首をかしげて、ハッとしたように英二に視線を向けて、しかし慌てて首を振った。
そんな旧友にアントーニョの言葉を聞いてから何故かずっと呆然としていた英二は
「…なんで……?」
と、小さく呟く。
その呟きは当然周りの人間の耳にも拾われる。
「なあ…フラン、なんでだよ?!今更だろ?俺達の関係なんて…」
と、周りの視線も全く意に介さず、英二はまっすぐにフランシスのところへ駆け寄って、その腕をつかんだ。
「…う…うん…でもさ…別にそういう意味じゃなかったのかも?」
「じゃあなんでこんなもん持ち歩いてんだよっ!砂糖や塩とかならまだしもっ!!
小麦粉なんて普通持ち歩かねえよっ!!」
子どものようにポロポロ泣く英二にフランは心底困ったように眉を寄せる。
どうしよう…?と言った風な視線を向けられて、ギルベルトはチラリとマシューに視線を送った。
「…なんです?」
ときょとんと可愛らしい様子で首をかしげるマシューの腕を掴むと、ギルベルトは他の面々から少し離れた窓際まで誘導した。
そして…マシューにだけ聞こえるくらいの小さな声で囁く。
「…犯人はわかったぜ?それぞれの奴の状況もな」
ぴかりと光る稲光にギルベルトの赤い目が光った。
「そう…ですか。で?それを僕に言うのは?」
ニコリ…とまるで動揺した様子もなく浮かべる笑みは口元だけで、眼鏡の奥で光るマシューの紫がかったブルーの目はゆらぎ無く理知的な色を放っている。
自分達が助かるのか助からないのか…それはこれからの自分のでかたにかかっている…とギルベルトは漠然と思った。
たぶん…こうなった原因は自分にある…と思う。
だからこそ、巻き添えにした友人達や後輩は無事に返さなければならない。
「あんただけわからねえんだ」
イチかバチか…とギルベルトは口を開いた。
「何故あんたは今回ここに来たんだ?」
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