続恋人様は駆け込み寺【呪いになんて負けないもんっ!不憫な青年の事件簿】13

「なあ…結局コーヒーに毒が入ってたってことかい?俺飲んじゃったんだけど…」
と状況が少し停滞し始めたところで、水木が真っ青な顔でアントーニョの袖をひっぱった。

アントーニョはそれをうっと惜しげに振り払い、

「一応まだ症状が出てへんてことは大丈夫やろ。症状出たとしてもテトロドキシンやったら症状出たら即人工呼吸して呼吸確保して待っとったらええらしいで」
とだけ言うと、やはりショックを受けて青くなっているアーサーに

「たぶん…大丈夫やと思うけどな、万が一舌や唇、指なんかに痺れが出たら親分に教えたってな。処置したるから」
と、安心させるような優しい口調で言って抱きしめる。


「えと…テトロ……?」
と、それでも不安げに聞きなれない単語をオウム返しに繰り返す水木に答えたのはギルベルトだ。

「テトロドキシン。わかりやすく言えばフグの毒だ」
「なんでそんな事知ってるんだよっ!!」
「え~、テトロドキシンがフグの毒くらいは常識ちゃいますか?」
と、ヒステリックに叫ぶ水木にそう言うのは黒井である。

しかしその後彼はチラリとアントーニョを見て続けた。

「そう、テトロドキシンがフグの毒っちゅうのは常識やけど…今回の毒がそれってなんでわかりはるん?
推理小説とかやと…ここは青酸カリとかそんなとこやと思いはらへん?」

そんな黒井の微妙に疑惑風味な言い方にもアントーニョは全く動揺すること無く、むしろ何を当たり前の事を…と言わんばかりに肩をすくめる。

「あのな、ドラマの見過ぎやで、それ。
青酸カリはめっちゃ苦いねんで?
エスプレッソくらい濃いコーヒーならとにかく、こんな薄いコーヒーやったらわかってまうわ。
あと日本で普通に手に入りやすいのはトリカブトかフグくらいやって爺ちゃんが言っとったから、まあそれ以外やったらしょうもないなと。
で、トリカブトもテトロドキシンも痺れが来るのは一緒なんやけど、トリカブトの場合顔面紅潮が来るさかい、テトロの方かなと思うてん」

「お前…馬鹿のくせになんでそんなに詳しいの?」

元々、最初は追試に受からなければならないアントーニョがアーサーを助ける代わりにアーサーから勉強を教わるという条件で始まったのが二人の付き合いのきっかけだったというくらいの成績のアントーニョである。

旧知の仲のフランシスも目を丸くして思わず本音をもらしてアントーニョに容赦なく蹴り飛ばされるが、ギルベルトはなんとなく察した。

「対処法まで教わってるっつ~とあれか、爺さんのお供する時に万が一の事があった時に対応しろってことで教わったんだな。
一応引退して息子に道を譲ったことにはなってるけど、未だ影響力の大きい大財閥の元会長だしな…」

「あ~あそこん会長は世界のあちこち護衛もつけずに飛び回りはる事で有名でしたな。
親父が言うとりました」
と、その言葉に黒井も納得する。

「ん。親分、長い休みの間は爺ちゃんと遊びに行く事多かったからな。
護身術も病気や怪我の対処も一通り教わっとるんや。
で、本題な~。テトロやったら痺れが出たらすぐ人工呼吸で呼吸させたったら、あとは体ん中で無害なモンになって排出されるから、ええらしいで。
せやからまあ…そっちの兄ちゃんは大丈夫ちゃう?
問題は……」

「どの時点で混入したか…ですね。」
と、英二と人工呼吸を変わったマシューが少し疲れた顔で、それでも言葉を引き継いだ。

そこで再度ざわめきが起こり、周りの視線がギルベルトに集まる。

「俺様じゃねえ…って言っても一番の容疑者だよな、やっぱり」
と、クシャッと頭をかくギルベルト。

「コーヒーに混入されている時点で、一番入れやすい位置にいたのはコーヒーを入れて運んできたあなたですしね」
と言うマシューの言葉に高校生3人組は少し後ずさってギルベルトから距離を取り、アーサーは不安げにアントーニョを見上げて

「ギルはそんなやつじゃない…。なんとかならないのか?」
と小声で訴える。

「まあ、親分は別にギルちゃんてことで落ち着いとってもええんやけど…」
と、友達甲斐のないセリフを吐いてギルベルトとフランシスの顔色を青くさせつつも、アントーニョは

「親分の可愛えアーティがギルちゃんが犯人やったら嫌やって言うから、まあ言っとくわ。
今ここは警察とかすぐに来れへん場所やん?
そこで殺人が起こりました。動機はわかりません。無差別かもしれませんなんて言うたら、皆パニックになって、下手すれば自分ら守るために犯人リンチとか嬲り殺しとかにしかねんやん?
マゾの自殺志願者やない限り、そんな状況で自分が犯人やってバレバレな方法で人殺す人間おらへんで?」
と、呆れたようにため息をついた。

その言い草に皆呆れ果てながらも、なんとなく納得してしまう。

「それは…確かに…。では誰がどうやってなんのために?」
目を丸くしながらも場をまとめていくマシューの質問にも、アントーニョは淡々と
「そんなん親分知らんわ。あとは誰か考えたって」
と、当たり前に投げ出した。

「え?」
「え?やないわ。なんで親分にわかると思うとるん?」

あまりにこれまで普通に皆の疑問に答えてきたのでなんとなくわかっているように思ったが、やはりアントーニョはアントーニョである。

「あ~こいつ最初に言ったように勘はすげえ良いんだけど、考えんのむかねえから。
とりあえず俺様が整理してみるわ。なんかおかしかったら言ってくれ」
と、そこでさすがに内心動揺したものの、なんとか平静を取り戻したギルベルトが手をあげた。



Before <<<      >>> Next



0 件のコメント :

コメントを投稿