やはり寒いので温かいモノは嬉しいのだろう。
ただのインスタントコーヒーではあるのだが、
「お~、きたきた。」
と、予めコーヒーを淹れてくることを言ってあったのだろう。高校生達はぞろぞろ取りに来た。
それぞれ温かいカップで暖を取ったり体の中から温まろうとコーヒーを飲んだりと、皆がホッと一息をつく中に二組の目が冷ややかな視線でその様子を観察する者が居ることには誰も気づかない…。
ヒタヒタと近づく復讐の女神の足音に気づく者は当人達だけだ…。
こうして皆当たり前に寛いで、大方の人間にカップが手渡った時である。
「あ、待って。ごめん、王君。そのブランド好きだから…替えてもらっていい?」
と、そこでそう言う英一に、自分の好みを通すなんて珍しいなとギルベルトが少し眉をあげれば、それに気づいたのか少し寄ってきた英一は
「このカップのブランド、英二が好きなんだ」
と小声で言うのに納得した。
本当にいつでも英二のために動く英一に、ギルベルトは過保護だな、と、苦笑する。
しかし兄の心弟知らずとでも言うのだろうか、カップを英一に渡した王が気を利かせたのかワゴンの別のカップを暖炉の側から離れない英二に渡していた。
「…あっ……」
と、それを見て英一は少しショックな様子を見せる。
英二の方が周りに対する適応能力がなくて世話を焼いていると見えて、実は英一の方が弟大好きのブラコンなのかもしれないな…と、ギルベルトは内心やれやれと溜息をついた。
「仕方ないな…」
と、もう癖のように浮かべる苦笑い。
少しフランに似てるな…と、思いつつギルベルトはコーヒーに口をつける。
「…あったけえ…」
と思わずため息が出た。
自分で思っていたよりも体は冷えきっていたらしく、年寄り臭い表現だが、五臓六腑に染み渡ると言った感じだ。
「ギルベルト君は一番寒い中で動いたもんね。お疲れ」
と、柔らかい労りの言葉と共に、英一もイタリアの某有名メーカーのグリーンの地のカップに口をつけ、コーヒーを飲み干す。
「なんだか俺も寒い所にいたからかな。
熱いコーヒー飲んだらなんだか舌や唇がしびれてきた」
と言ったあと、しばらく談笑していたが、やがて少し震える手でカップを近くのテーブルに置いた。
「英一?」
「ああ…なんだか疲れたのかな?
なんだか指先も痺れてきて…カップ落とすと割れるから…」
と、ここでギルベルトはようやく様子がおかしいことに気づいた。
「ちょっと座っとけ。寒気とか吐き気は?」
慌てて椅子を勧めるギルベルトに小さく礼を言って崩れ落ちるようにそれに座る英一。
さすがに周りも気づいて寄ってきた。
「英一さん、どうしたんですかっ?!」
というマシューの問いにギルベルトも
「わからねえっ」
と首を横にふる。
「なんか舌とか唇とか指が痺れるって…」
と、その後ギルベルトが口にした瞬間、マシューの視線が英一がコーヒーを飲んだカップに注がれた。
「これ…飲んだあとです?」
と言われて、ギルベルトは、
「たぶん…」
と答える。
「…吐かせた方がいいかもですね」
と、マシューは青い顔で言うが、そう言っている間にもどんどん英一の顔色が悪くなっていき、呼吸困難を起こし始めた。
「ちょ、ざけんなっ!負け逃げなんか許さねえぞっ!英一っ!!吐きやがれっ!!」
誰もが呆然とする中、ドンっ!と周りを突き飛ばして英二が駆け寄ってくると、英一の襟首を掴んで椅子から立ち上がらせ、体制を変えて顔を下にすると吐かせようと口に指を突っ込んだが、吐けない。
「あかんっ!多分違うわっ!!先に人工呼吸しっ!!」
と、そこでそれまでしっかりアーサーを抱え込んだまま考え込んでいたアントーニョが何か思いついたように叫んだ。
そこでハっと弾かれたようにマシューが動く。
英二から英一を取り返すと床に寝かせ、気道を確保して空気を送り込み始めた。
「マシューが疲れたら次やんのは自分やで?自分の兄ちゃんやろ?」
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