入ってすぐ正面に二階へと続く広い階段。
右側の部屋は灯りがついていたので、まず家主の姿を求めてそちらへ向かったが、どうやらリビングらしき部屋には人は見当たらない。
まあとりあえず…外から見たらこの奥の部屋も灯りがついてたように思うから、先進もうか…」
とそこで英一がうながすが、英二は暖炉の前に陣取ったまま
「俺はここから動かないぞ。行きたい奴だけ行けよ」
と、断固として拒否する。
まあ…みな身体が冷えきっているので火の周りに集まっているわけだが…。
それを見て英一はまた仕方ないな…と言った風に苦笑した。
本当に双子でも兄と弟なんだな…と、ギルベルトもまたその様子に苦い笑いを浮かべて言う。
「じゃ、俺様が見てくるわ。
あんまりバラバラにならねえ方が良いと思うし、皆ここで待っててくれ」
と言うと皆やはり寒かったのか一人を除いて素直に従った。
そう、英一だ。
「いや、ギルベルト君だけに任せても悪いし…俺も行くよ。
非常時とは言え不法侵入してるからね。
万が一主人に怪しまれたとしたら、俺の顔が多少は身分証明になってくれるかもしれないし…」
と言われれば、ギルベルトもなるほど、と思う。
そしてこの非常時にこれだけ気遣いが出来るというのは、大した器だと感心した。
「んじゃ、二人で行ってくら」
とひらひらと手を振るギルベルト。
そこで英一は
「じゃ、行ってくるから。これ頼むよ、フラン」
と、大切に抱えていたバイオリンケースをフランシスに預けると、ギルベルトと並んで部屋の奥へと進んでいった。
「…あんた…有名人なのにずいぶんと人が良いんだな」
こうしてリビングを出て、ギルベルトが弟と違い、この状況に機嫌を悪くするでもなく、飽くまで周りのために気遣う英一をチラリと横目で見て言うと、英一は
「さっきから疲れてるだろうし寒いだろうに全部自分が率先して動いてる君がそれ言うのかい?」
と小さく吹き出す。
まあ…言われてみればそうなのだが…悪友の中では一人っ子に囲まれた唯一の長男ということもあり、どうもこういう時は自分が動く事になってしまう…そう言うと、英一は
「俺もだよ。双子とは言え兄貴だからね」
とウィンクする。
ああ、こいつ女にモテるのわかるわ…と、マメで優しくてイケメンで…さらに有名バイオリニストと、3拍子どころか4拍子は揃っている青年を見てギルベルトは思った。
そんな会話を交わしながらもたどり着いた奥の部屋はキッチンらしく、しかしやはり人の気配がない。
しかもテーブルの横にはワゴンがあって、テーブルの上にはそれぞれ違う高級ブランドのカップがちょうど人数分の10個。
それらのカップの横にはご丁寧にも未開封のインスタントコーヒー。
そしてガスコンロの上にはヤカンに入ったお湯まで用意されていて、さらにご丁寧なことにはテーブルの上にはスナック菓子の袋が多数あり、ついでに『ご自由にお召し上がり下さい』と書いた可愛らしい白雪姫のカードが添えてある。
「ここもかよ。
つか、カードまで用意されてるって…やっぱりこれドッキリじゃねえのか?」
あまりに都合よく色々が揃っているくせに人間だけいないというのは、さすがに不自然だ。
呆れるギルベルトに
「とりあえず…せっかく用意してくれてる事だし、ありがたく頂こうか。
俺、先に戻ってお腹すかせた面々にスナック配って戻ってくるから、ギルベルト君、一応カップを洗ってコーヒー入れて置いてくれる?運ぶのは手伝うから」
「おっけぃ。じゃ、いれておくわ」
とギルベルトはいったん戻る英一を見送るとカップを適当に洗って適当にコーヒーを入れはじめた。
こうして全員分入れ終わったあたりで英一が戻ってくる。
「じゃ、運んじゃおうか…あ、クリープがあるね。それも持って行こう。あとスプーン」
とワゴンにせっせとカップを乗せる英一の言葉に、ギルベルトは食器棚の中の未開封のクリープとスプーンを取り出し、ワゴンに載せた。
こうして支度が終わってギルベルトはワゴンを押して英一と共にリビングに戻る。
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