こうしてこちら側以外の紹介が終わったところで、今度はフランシスがアーサーやアントーニョ、ギルベルトと、こちら側の人間の紹介をしていく。
それがひと通り終わると
「結局…誰をなんのためにここに連れて来たかったんだろうな…」
と、誰からとも無く声があがる。
と、フランシスが少し小首をかしげて言うが、それに対して英二から
「俺の性格知ってれば、こんな無謀なドッキリなんて仕掛けないな。
これが主催のドッキリなら断固としてコマーシャルその他の契約全部打ち切ってイタリアに帰るぞ」
と、ツッコミが入り、
「まあ…お前ならやるよね」
と、英一が苦い笑いを浮かべる。
ああ、確かに…と、自身も英二の気性をよく知るフランシスは自分の言葉を翻して即同意した。
英一と英二は双子でも真逆な勢いで性格が違う。
英一なら心の閻魔帳に一応は記録しながらギャラのUPかスケジュールの緩和か何か、条件の向上の交渉に入るだろうが、英二なら確かにキレて帰る。
音楽に関しても英一は計算して美しい音色を奏でるエンターティナーで英二は自分が表現したい音を創りだす芸術家だ。
数々のコンクールの一位二位を総ナメにするこの兄弟は、それでいて音楽性すら正反対なのだ。
二人の師匠でフランシスも本当に幼い頃に少しだけレッスンを受けさせてもらったことのある世界的な音楽家アレッサンドロ・ジロッティいわく、
『英一は私がいなくても誰かに売りだされて有名なバイオリニストにはなれただろうが、英二は彼をわかっている人間が売りだしていなければただの変わり者として埋没していただろう。
ただし、英二がこうして売りだされた今、英一は常に2番目のバイオリニストだ』
ということだ。
実際に…こうして二人揃って有名になった今、ジロッティが関わらないコンクールでも常に英一は英二の次…2位である。
もっとも他に関して言えば、我儘で頑固で人当たりもきつい英二よりも、二位とは言え名のあるコンクールで数々の賞を受賞しているのに腰が低く人当たりも良い英一の方が当然周りの人間にも好かれるし、一部のコアな音楽家達とは違う一般のファンの間では人気がある。
特に、顔立ちにも性格が現れているのか、似た顔ではあるものの若干アクが強い感じの英二よりも柔和に整った甘い雰囲気の英一は女性ファンに絶大な人気を誇っていた。
なので両方共旧知の仲ではあるが、フランシスもどことなく似た性格の英一とのほうが仲が良いのだ。
今も、一人で震えている英二の横で英一と二人、本当に寒いねぇなどと苦笑交じりに…しかし若干楽しそうに話している。
そうこうしているうちにずぶ濡れのギルベルトとぬいぐるみの青年…マシューが戻ってきた。
その難しい表情から結論は予測できる気がしたが、若干疲れた様子のギルベルトの口から出た言葉はやはり全員の予想に違わぬものだった。
「トーニョの言うとおりだった。
入江のあたりにはボートの影も形もねえ。もちろん係員の男もな。
…マジしてやられたぜ」
「とりあえず…中に入りましょうか」
舌打ちをするギルベルトの横でマシューが柔らかく促すと、
「ほな、行きましょか~」
と、黒井が呼び鈴を鳴らした。
…が、待つ事数分。
誰も出てくる様子がない。
「どうしようか…」
と迷う一行だが、そこで腕の中に抱え込んでいたアーサーがクシュンとくしゃみを一つした瞬間、
「もう強引にでも入ったろ。非常時や。
ドア蹴破れへんかったら窓割って入る言う方法もあるし。
文句言われたら親分が弁償したるわ」
と、止める間もなくアントーニョがドアノブに手をかけたが、なんと鍵もかかってなくて、あっさりドアが開いた。
「なんや、開いとるんかいな」
と、何故か少しがっかりした様子で言うアントーニョに複雑な表情の一同。
「もしかしたら…孤島で誰も来ないからかもな」
と、ギルベルトが言うのに
「どうでもいいから中入るぞっ!寒いっ!!」
と、英二が建物の中に駆け込んで、それに釣られるように全員が中に入った。
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