続恋人様は駆け込み寺【呪いになんて負けないもんっ!不憫な青年の事件簿】4

確かに目玉である加瀬兄弟は居るし、他にも音楽をやっている学生が居る。
なのに感じるこの違和感はなんだろうか……。

まとわりつくような空気…。
海の上で海風に吹かれているから…というわけではあるまい。
これはもっと感覚的なものだ。

実に非論理的な考え方だと思うが仕方ない。

 自分だけは死んでも許さん…。
…絶対…裏切り者ともども絶対に…悪魔に身を売ってでも呪ってやるわ。
…覚悟しとき…

ふと近頃来たメールを思い出してギルベルトは軽く首を横に振った。
何故今あんなモノを思い出す?

――俺様…思いのほか疲れてんのかなぁ…。

と窓の外に目をやれば、外はポツリポツリと降りだした雨がずいぶんと激しくなってきて、嵐のようになっている。


そういえば少し風が出てきたようだ。
豪華ではあるが大きくはない船は波に揺れ、カタカタと微かに食器のぶつかり合う音がする。

しかし話に没頭している周りはそれを気にした様子もない。

船旅が初めての自分だから気になってしまうだけなのだろうか…と、少し不安な気分になりながら、ギルベルトは夜の海から視線を再び船内に向けた。


フランシスは旧知の仲なのだろう。双子の片割れと親しげに話している。
双子と言っても二卵性双生児なので、若干顔立ちが違う。
若干柔和に見えるあの顔立ちは長男の英一の方だ。

少し勝ち気な感じの英二の方は、他の高校生3人と話していて、ぬいぐるみの青年はにこやかにその輪に入っているようにみえるが、時折ギルベルトと同じくあたりをチェックしているようにも見えた。


(…なあんか場違い…なんだよな…)
加瀬兄弟の服を手がけているフランシスの母親のコネで船に遊びに来た自分達はわかるが、他は音楽家を志している高校生のはずだ…。

なのに楽器を持つでもなく、積極的に加瀬兄弟達の話を聞くでもないその様子は、ひどく異質なものにギルベルトには思えた。

…何も起こらなきゃいいんだがな……と思うのは、去年巻き込まれた騒動のせいで神経過敏になっているせいなのだろうか…。


と、その瞬間だった。


ドンっ!!!とひどい衝撃が船に走る。


「「なんだっ?!!」」
と、皆が走り寄ると船の横腹に小型船舶が突っ込んでいる。

いつのまに?!どこから来た?!何故今まで気づかなかったんだ?!!
色々確認したいところではあるが、

「皆様、静粛に願います。他船に追突されたため、この船はじきに沈みます。
が、救難ボートはもちろん人数分用意しておりますので、まずは学生さん達から係員の誘導にしたがって避難して下さい」
とのアナウンスが入り、取るものも取りあえず避難することになる。

とにかく仲間4人集まり、係員に誘導されるまま救難ボートへ。


「全く、どうなってるんだっ!!」
と、避難する道々激怒する加瀬英二を兄の英一が
「ぶつかられたんなら、この船の側の落ち度じゃないだろ?係員さんに言っても気の毒だ」
と、なだめる。

「「でも…」」
と、そこでギルベルトが口を開いたのとほぼ同時に口を開いたのは、ぬいぐるみの青年。

あ…とお互い顔を見合わせるが、青年がこんな状況に不似合いな穏やかな様子で

「どうぞ」
と、譲ってくるので、ギルベルトはそれに会釈で返して、係員に視線を戻した。


「ぶつかるくらい近づくまで何故わからなかったんですか?
こんな船ならレーダーくらい付いてないんですか?」

どうやら相手もそれを言いたかったらしい。
ギルベルトの言葉に無言でコックリと頷いた。

「あ~申し訳ありません。私は客室係なのでそのあたりの詳しい事は存じ上げないのです。
そのあたりについては岸についてから船長の方から改めてきちんとした説明があると思いますので、それまでお待ちください」

本当に申し訳無さそうに身を縮めるようにそう言う係員をこれ以上吊るし上げても何も出てこなさそうだ。

ギルベルトは
「わかりました」
と小さくため息をつくと、救難ボートまでの道を急ぐ。
  


こうしてボートにたどり着くと、最初に加瀬兄弟、その後フランシスとギルベルト達、そして高校生3人とぬいぐるみの青年、最後に一人係員が乗って客船を離れた。




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