恋人様は駆け込み寺_番外編【その男普憫につき】3

『アーサー、覚えとってくれたんやね。』
と、心持ちはずんだ声のエンリケ。

ああ、仲の良い相手が出来て日々幸せなのか…と、別に不幸になってほしいとかではないので、アーサーも旧友に接するように

「当たり前だろ。まだそっち行ってから5ヶ月くらいだし?」
と、小さく笑う。

それにエンリケは
『まだやない。もう5ヶ月やで?アーサーに会えんようになってから、もう5ヶ月や…』
と、ため息混じりに言う。

少しテンションが下がったようなその物言いは気になったが、まあ…幼なじみでずっと顔を合わせていたわけだから…と、そう取ることにして

「でもすごく仲の良い特別な奴できたんだろ?」
と、明るい方向に持って行こうとするが、そこでいきなり、
『誤解せんといてなっ』
と、返される。

『俺が好きなのはアーサーだけやで?
あいつは単にこっちに居る間色々便宜はかってもろうとるだけや。
そのうちジジイの目をかいくぐって日本に戻れるようにしてもらうさかいな、待っとって』
と言われた時点で、目が点になった。

え?ええ?まだ終わってなかったのかっ?!

「ちょっと待て。一応言っておくと、俺はそういう特別な意味でお前の事好きじゃない」

もう去年の春からずっと繰り返してきた言葉をまた繰り返すと、

『アーサーはほんま照れ屋やな。そんなとこも可愛えんやけど…』
と、またこれも去年から何度も聞いてきたような返事を返されて目眩がする…。

駄目だ、こいつ。本気で駄目だ。なんとかしないと……。
額に手をやり天井を仰ぐアーサー。

本気で日本に戻ってこられたらどうしよう…。
せっかく平和な生活を満喫しているのに…。
双子だって転校してこなくなってしまうかもしれない…と、今日アントーニョを一緒に待っていてもらった新しい友人達の顔を思い浮かべた瞬間、アーサーはふと今日のやりとりを思い出した。

――いくら可愛くても、面と向かってそれ言うような相手はさすがに無理だな…
――う~ん…俺もちょっと厳しいかな~?

ああ、そうだ、それだっ!!

「キモイんだよ」
『へ?』
「お前しつこいしキモい」

例の女子高生達の会話…あとはなんだったか…確か…と、アーサーは記憶の糸を手繰る。

――あんたみたいにキモい奴と付き合うなら、ユウヤと付き合う方がまだマシって……

そうだ、他の奴を引き合いに出していた。
自分の場合、誰と付き合った方がマシと言えばいいんだ?と考える。

エンリケと共通の知人だと…アントーニョはマシどころか好きで付き合っているからおかしいし、フランはお互い気持ち悪いと思うと思う。

そうなると…あとは……

「お前みたいにキモい奴と付き合うなら、ギルと付き合う方がまだマシだ」
そう言うと、あまり突っ込まれるとボロが出るので、即通話を終了して携帯の電源を切る。

よし、言ってやったっ!と我ながら良い対応だったと満足したところに、

「飯出来たで~。手ぇ洗って来ぃ~」
と、アントーニョが呼ぶ声がして、このやりとりはアーサーの脳内からはすっかり消え失せた。

――そう…”アーサーの脳内からは”…である。


そうして翌朝、エンリケを起こしに行った孤児院の職員は、部屋からその姿が忽然と消えているのを慌てて報告しに行き、祖父がいち早くそれをアントーニョにメールで知らせるとほぼ同時くらいに、ギルベルトはメールを受け取ることになる…。

【自分だけは死んでも許さん…。
…絶対…裏切り者ともども絶対に…悪魔に身を売ってでも呪ってやるわ。
…覚悟しとき…】

何故アントーニョではなくギルベルトなのか…という本当の理由を知っているのは、送った張本人と、前日のやりとりなどスパッと忘れ果てているアーサーの二人のみ。

ゆえに誤解だと知ることもなく、また当然それを解くことも出来ず、全く自分に関係ない事を発端としたこの受難に否応なく巻き込まれていく…。


ギルベルト・バイルシュミット…”人はいいのにどこか不憫”な男なのである。




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