恋人様は駆け込み寺_番外編【その男普憫につき】1

放課後…学校近くのファーストフード店でアーサーは双子と待ち合わせてお茶をしている。
3人はここでアントーニョの部活が終わるのを待って一緒に帰る予定だった。

学生街だけあって店内は安さ手軽さに惹かれた学生で混み合っていたが、なんとか4人がけのボックス席を確保して、それぞれコーヒーやシェイクなど飲み物と、それは一緒につまむために買ったポテトのLを齧りながら時間を潰していると、後ろの席の女子高生達の可愛らしい笑い声が響いてきて、耳を癒やした。

見た目も可愛らしい二人組。
周りの男子学生もチラチラと視線を送っていて、当然3人もなんとなくそちらに関心が向く。

「やっぱベッラは存在するだけで社会貢献だよな。」
と、微笑みを浮かべるロヴィーノ。
「だよね~。癒やされるよね~。」
とふわふわ笑うフェリシアーノ。

アーサーも一応男なわけでそれには同感なわけだが、アントーニョも本当はこんな高く柔らかい声で可愛らしくおしゃべりをする少女達の方が好きなのでは…と、ふと思考がネガティブな方向に向かって、黙って塩気がやや効き過ぎたポテトの塩を払って口に運んだ。

…と、その時の事である。

「でもさ~…」
と、話も盛り上がってきて、やや声のトーンがあがってきたらしく、今までは全ては聞き取れなかった会話がはっきりと耳に入ってくる。

「この前、えりに告白してきたあいつ、なんかキモくない?
性格とかさ、ウジウジした感じですごく暗くて…」

「あ~、あたしもさ、それ思ったから、本人に直接そう言っちゃったよ。
あんたみたいにキモい奴と付き合うなら、ユウヤと付き合う方がまだマシって」

「うあ~直接言ったんだ。やるね~」
と、実に楽しそうに笑う二人に、周りの男達が硬直する。

ロヴィーノとフェリシアーノも同じくで、
「いくら可愛くても、面と向かってそれ言うような相手はさすがに無理だな…」
と、眉を潜めるロヴィーノと
「う~ん…俺もちょっと厳しいかな~?」
と苦笑するフェリシアーノ。

「…まあ…二人共イケメンだから、いくらでも相手選べるだろ…」
期間限定の紅茶シェイクをすすりながら若干ホッとして言うアーサーの言葉に、双子は目を丸くして顔を見合わせ、次に音声多重で
「「アーサーがそれ言うのか~」」
と、呆れたように言った。

何が”アーサーが”なのかわからない。
自分などは嘘をついて、同情を引いて、なし崩し的になんていうコンボで意中の相手と付き合えたのだ。
ハッキリ言って普通に告白していたら即断られていた自信はある。
アントーニョがひどく同情していたstkrが去った今、いつフラれるか日々戦々恐々としているというのに…。

そんなアーサーのネガティブな部分もすでに知っている二人は、当然アーサーが今考えている事も想像できてしまって、苦笑する。

(…ホントに…自分の事になると全然気づかないんだよなぁ…)
と、双子が揃ってため息をこぼしたところで、それを目の前の飲み物がなくなったためかと勘違いしたアーサーが
「あ、良かったら飲むか?」
と差し出したシェイクのカップは
「アーティ…そういう事は親分以外にしたらあかんよ~」
と、後ろから伸びてきた手に取り上げられた。

「あ、トーニョ、部活終わったのか」
と、振り返ろうとするアーサーに覆いかぶさるように立ったまま後ろから抱きしめるアントーニョ。

「おん。やっぱあかんわ~。これからは学校内で待っといて~」
と、頬をグリグリとすり寄せるアントーニョに、くすぐったいと笑いながらも
「なんで?」
と聞くアーサーは鈍いと双子は思う。

だって、二人に自分のシェイクを差し出しているアーサーを見た時のアントーニョの殺気ときたらすごかった。
牙を向いた猛獣並みに…。


普段は双子がどれだけひどい態度を取ろうが怒りもせずニコニコ笑うばかりの従兄弟が、こと恋人に関する事になると、心が針の穴より狭い事を双子は実感している。

ようは…それだけ特別で替えが効かない大切な存在…というわけなのだが、恋人様の方のそのあたりの節穴っぷりもすごい。

どうやらもう大学入学資格まで持っているようなすごい秀才なのに、人の心の機微を感じる能力…もっというなら、自分に対する相手の好意を察する能力に関しては、幼稚園児よりひどい。
限りなくないんじゃないかというレベルだ。

その鈍感っぷりに余計にアントーニョはヤキモキして、拘束を強くしようとするのだが…。

しっかりしているようで抜けてて、今どき珍しくきちんとした敬語で目上にも堂々と対応出来るくせに、いざプライベートになると不器用で、家事は完璧らしいのに料理だけダメで、細くて童顔で可愛らしい顔立ちをしていて…なのに、少女のような顔立ちの中で眉毛だけ不似合いに太いため、人形のように整いすぎてなくて愛嬌がある。

もう色々とそのアンバランスな魅力が満載すぎて、一部の…ひどく執着心の強い人間を強烈にひきつけてしまうのではないかと、双子は思っていた。

「アーティ、飲んでもうてええ?親分すごく喉乾いてもうて…」
と、恋人のカップに手を伸ばすアントーニョだが、どう考えてもドロリとしたシェイクで喉の乾きを癒せるとは双子には思えない。

「ああ、いいぞ。お疲れ」
とにこやかに応じているが、アーサー、気づけ、それは他にアーサーの飲みかけを飲ませたくないからだ…と、双子は揃って心のなかで呟いた。

なんとなく…なんとなくだが、アントーニョの態度をみていると、エンリケのアーサーに対する態度も想像出来てしまう気がする。
二人は好きな相手に対する態度は本質的に変わらないのだと思う。
きっと陰と陽、わかりにくいかわかりやすいかだけの違いなのだ。

まあ、アーサー的にはそこがすごく重要なのかもしれないが…。




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