恋人様は駆け込み寺_番外編【白雪姫の継母の話】10

こうして1年の教室のドアが開くのを待って、中を覗きこんだエンリケは、本日数度目の衝撃を受ける事になる。

……アーサーがいない!!
「ちょ、アーサー・カークランドはどこ行ったん?!」
と、思わず出てくる1年生の腕を掴んで聞くと、1年生はその勢いに驚きつつも
「ああ、早退しましたけど?」
と、教えてくれた。

「いつ?!」
「…ん~1時間目が終わったあと…だったよなぁ?」
と、その1年生が友人に確認すると、友人も頷く。



1時間目……やられたっ!!
エンリケは教えてもらったことへの礼も言わず反転して自分の教室へと急いで戻った。
そうして自分の教室へ。

皆昼を取っている中、購買から帰ってきたらしいクラスメートとぶつかった。
「気をつけっ」
と、睨みつけると、一瞬文句を言おうとした相手は、その尋常じゃない目をしたエンリケに怯えたように黙り込む。

数年前、中学3年生のエンリケが委員長をしていた頃の副委員長だ。
いちいち丁寧に説明をしてやらないと調べ物もしてこれない使えない男だったし、謝罪が返ってこないのも仕方ない。
馬鹿を相手にしても時間の無駄だ…と、その場に硬直する相手を残して自分のカバンを取りに自席に向かったエンリケは、その瞬間にハッとした。

委員会……そうだ、あいつだっ!!
過去、エンリケの跡を継いだ部長や委員長のほぼ全員が翌年エンリケに教えを乞うて来た中で、唯一最後まで頭を下げなかった馬鹿がいた。

確か生意気に中2で委員長になったデカブツで、過去の資料はないのかとか、当たり前に自分達が築いたノウハウを譲ってもらえるものだと思って聞きに来たので、礼儀をわきまえろといったら、そのまま謝罪もせずに帰っていった礼儀知らずの付き添いで来ていた当時の中3,一学年下の馬鹿だ。

もちろんそんな輩に教えてやる義理はないので放置したら、どうやってかなんとかしたらしいが、あの時の事を恨んでいるとしたら……?

そうだ、そうに違いないっ!
おかしいと思ったのだ。

アントーニョは腹の立つやつだが、馬鹿なのでこんな風に計画的に嫌がらせを出来るタイプではない。
おそらく今回の一連はあいつが知恵をつけたのだろう。

イライラとそんなことを考えながら、あいつが画策しているなら、まずチャイムを押しても素直にアーサーが出てくるとも思えないし、念のためアーサーのマンションに他に誰かいるのか確認しようと、自分の自宅へと戻る。


誰か来ているなら玄関に靴があるはずだ…。

そう思ってまずアーサーの家の玄関を確認するが、そこにはいつもアーサーがプライベートで履いているスニーカーがあるのみで、エンリケは首をかしげた。

アーサーは自宅に戻っていない?

…ということは……3軒隣の従兄弟の家…ならまだいいが、もしかしてあの男の家とかに連れ込まれているのか?





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