恋人様は駆け込み寺_番外編【白雪姫の継母の話】9

アーサーが裏切るなんてありえない。こんなに二人は愛し合っているのだ…。
ありえない…ありえるはずがない…ありえるはずがないのだっ!
きっと犯人は……

ギリっと歯を食いしばって怒りの視線を向けるが、アントーニョは食えぬ笑みを浮かべている。
何もかも持っているくせに、エンリケが持っている唯一を取り上げて優越感に浸っているのか…。
こいつだけは…こいつだけは許さない…

そんな気持ちでアントーニョをさらに睨みつけていると、どうやらアントーニョの側の人間が来て、アーサーを攫って行ってしまった。

可哀想に…きっとあの子は騙されているのだ。そうに違いない。
もしくは脅されている?

その後、アーサーを連れて行った奴が戻ってきた。
銀髪に赤い目…その特徴的な容姿はどこかで見たことがある気がするが、思い出せない。
しかしそいつに関わっている暇はない。
アーサーを救い出さなければ。
騙されているにしても脅されているにしても、恋人の自分が救いだしてやらねばならない。

男が来てアントーニョの気がそれた隙にエンリケは校内に駆け込んだ。
そしてそのまま1年の教室へ。

しかし、まだ数人しか来ていない1年生の中にアーサーの姿はない。

「なあ…アーサー・カークランド知らへん?」
と、教室内の1年生に聞いてみても、まだ登校してきていないという返事しか返ってこない。

彼らが嘘をつく理由もないので、エンリケはそのまま1年の教室を出て2年のアントーニョの教室へ。
しかしそこにもアーサーの姿はなかった。

あと…あの子が向かうとしたら…と、次に覗いたのは保健室。
そこにも当然あの子はいない。
一体どこに連れて行かれたのだろうか…。
このままでは二人は引き離されてしまう…と、焦る。

そうこうしているうちに予鈴がなった。
さすがにもう自分の教室に戻らなくてはまずい。

仕方なしにエンリケはもしかしたらまた自分を怒らせたかも…と怯えているかもしれないあの子を緊張させないように、なるべく普通にメールを打った。

――あとで迎えに行くな~。

とりあえず…短い休みの間に行っても、朝あんなことがあったばかりだし、アントーニョ達が群がっているだろう。
むしろ午前中の休み時間は素知らぬふりで、相手が油断をした頃、昼休みに迎えに行ってゆっくりと話を聞こう。

自分達は愛し合っていてわかりあっているのだから、これ以上詳しく書かなくてもアーサーにはこれで通じている。大丈夫だ。

こうなったら一刻の猶予もない。
すぐにでもちゃんと付き合うという形式を取って周知させなければ…。


こうして授業など全く頭に入らず昼休みの少し前に、気分が悪いので保健室に行くと言って教室を早めに出たエンリケは1年の教室の前で待機する。

幸いにして油断したのか、アントーニョが来る気配はない。
自分の勝ちだ。
ちゃんと話し合う機会があればあの子も目を覚ますだろう。
だって自分達はこんなにも愛し合っている。
姑息な手段であの子を奪おうとしても、自分達の結びつきはそんな脆いモノではない。

勝った…自分はアントーニョに勝ったんだっ!!!
自然と笑みが漏れる。
授業終了のチャイムが自分達の仲を祝福する教会の鐘の音に聞こえた。




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