その日は最悪だった。
「おはようさん、お寝坊さんやね、アーサー。可愛え顔して寝とるな」
目を覚ますとまず視界に入ってくる愛しいあの子の寝顔にそう声をかけてエンリケはベッドから起き上がった。
それから同じく気づかれないように取った可愛らしい笑顔の写真の入った写真立てにキス。
極度のはにかみ屋なため滅多に見られないその笑顔は、もちろん、同じように気付かれないように撮った写真だ。
その後、朝食。
もちろん食器も椅子もアーサーの分と二人分用意する。
椅子の上に置くと見えなくなるので、アーサーの分の席のテーブルの前にアーサーの写真。
皿には少なめに朝食を盛るが、小食なあの子は量を食べられないため、いつも残った分をエンリケが食べてやる。
そうして二人で朝食を済ませると身支度を済ませ、カメラを確認。
この作業もあの子の無事を確認し、健やかな生活を守るためには欠かせない。
小さなディスプレイの向こうの玄関にはきちんと磨かれた登校用の靴が揃えておいてある。
そこでチャネルを切り替えて、今度は別のカメラの映像を映しだすと、玄関から居間に続く廊下が見えた。
運が良ければたまにアーサーが洗面所に行ったりする姿が見えるのだが、今日は見えない。
もう身支度をすませてしまったのか、これからか…。
アーサーが自宅を出る時間までには電車で1駅のアーサーの自宅まで迎えに行きたいので、これ以上アーサーが通りがかるのを待っても居られない。
触れる事ができないだけで一緒に暮らしているようなものだが、やはり直に触れたい。
最近は年頃になって羞恥心が先立つのか手をつないだりはしてくれないが、それでも一瞬肩や腰などに触れることはよくある。
まあいつか自活出来るようになって本当に一緒に暮らすようになれば、自宅内なら人目もないしあの子も恥ずかしがらずにベタベタさせてくれるだろう。
そんなことを考えながら、エンリケは今暮らしている離れを出て、母屋の方を通らずに裏門から外へ出た。
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