恋人様は駆け込み寺_番外編【白雪姫の継母の話】4

望むものはたった1つだ。
アーサーだけだ。

大学まで卒業して社会人になったら小さなマンションを買って一緒に住もう。
そうしたら朝から晩まで一日中、可愛いあの子を独占出来る。

部屋は狭くても良いが、ベランダは2つ欲しいところだ。
1つは花が好きなアーサーがプランターを置いて花を育てるようで、1つは洗濯物などを干すように。
小学校を卒業して中学に入る頃には、そんな漠然とした将来の設計図も描くようになった。

少しでもアーサーとの将来をより良いものにするためには、学生時代から良い評価を得て、良い就職先を見つけなければならない。
そのためには内申も必要だ…と、それまでは人との関わりを極力避けてきたが積極的に委員会や部活動に参加するようにし始めた。
もちろんやるなら長だ。

大抵は誰がやる?となった時に皆尻込みをしたり譲りあったりするので、そこで颯爽と手を上げる。

必ずしも部や委員会に通じていたりするわけでもなく、ときには、え?という顔をされたり、誰か他の人が良いのでは…と実際長にしたい人間の名を挙げられたりもするが、『やりたないって言う奴より、やりたいって奴がやった方がええんちゃう?それとも俺やとあかん理由あるん?◯◯』と、実際に名指しで言ってやれば、大抵は黙った。

仕事はわからないことがあれば副に言えば大抵は前年度までの資料を調べてくるし、やることがわかれば部員や委員に命じれば良い。


引き継ぎ資料などは作らない。
必要なことは自分の頭の中にのみ記録してある。

わからないことがあれば聞きに来れば良いと思う。
その都度時間があれば教えにいってやるのだから、感謝くらいはして欲しい。

それで数度グダグダ言ってくる輩も多くいたが、結局情報がなければ回せないので頭を下げてきた。
出来の悪い後輩を持つと本当に苦労する。

こうして順調に高校まで。

年を追うごとに昔は素直だったアーサーが素直じゃなくなって、若干邪険になってくるが、まあ皆そんなものだろう。

年齢があがれば幼児のように思ったままを口にだすのは恥ずかしくなってくる。
そんなことでいちいち目くじらをたてるほど、自分は小さな男ではない。

アーサーが高等部に入ってきたら、そろそろきちんとした形を取っても良い頃だ。
幼稚舎からの男子校だし、付き合っている奴らも結構いる。

告白…というのも今更だが、形式も大事だ。
思い出に残るように進学式のあとに体育館横の桜の木の下で、桜吹雪が舞い散る中で…なんていうのは、外見同様可愛いモノを好むアーサーが喜びそうなシチュエーションだ。

そして当日…まるで自分達の新しい関係を祝福しているように晴れ渡った空の下、

「今更なんやけどな…」
と、正式に付きあおうと言ったエンリケに、アーサーは驚きの顔で後ずさった。

「…冗談…だろ?」
と言ったのはきっと照れ隠しだ。
無理…と言ったのも照れ隠しなんだろう。

そんな素直になれないところも可愛い。
アーサーは何をしていても可愛い。

それでも一度くらいは素直な返事が聞きたくて、それからは毎日のように告白し続けたが、毎日のように無理、付き合えないなどという素直じゃない言葉が返ってくる。

あまりに頑なにそれが繰り返されるので、さすがにエンリケも変だと思い始めた。

もしかして…学校では珍しいことではないものの、男同士だからと、誰かにからかわれるのを恐れているのだろうか…。

からかうとしたら…どのあたりだろう。
アーサーの従兄弟のいけすかないロン毛か?
それともクラスメート?

素直に愛情を口にして甘えたいであろうあの子がそれを出来ない要因を作っている奴は一体誰なんだ?

それと知られないように、アーサーを苦しめるような者は排除してやるのが、年上の恋人としての思いやりである。

だから中学に上がった時と同様、アーサーが席を外している間にアーサーの携帯のアドレス帳をソッと写しとって、親しそうな学校の知人には捨てアドから不幸のメールを送っておいた。



 Before <<<      >>> Next 


0 件のコメント :

コメントを投稿