恋人様は駆け込み寺_番外編【白雪姫の継母の話】3

不幸な事に、少しでも人間関係ができやすいように…と、親が入れた幼稚舎から大学まで一貫の学校の幼稚舎に入って1年。

当たり前に友人など作る事が出来ず一人ぽつねんとしていたら、その1歳下のアントーニョが翌年に同じ幼稚舎に入ってきて、入園したその日に山のような友達を作っていた。

逆ならまだ良かった。
1歳だけとはいえ、自分より年下の従兄弟に色々抜かされていくエンリケの焦りとプレッシャーはどんどんと積み重なっていく。

ダメな自分…愛されない自分…1歳下の従兄弟にすら色々負ける何も出来ない自分……
それを認めてしまうと、あまりに自分が惨めで辛い。

なのでエンリケはひたすらアントーニョを…他人を見ないように、ジッと唇を噛み締めて俯きながら日々を過ごした。

そのエンリケの態度が他の子どもを遠ざけるということは、子どものエンリケに当然わかるわけもない。

そうして同じ園で従兄弟が自分とは違って人気者で好かれているという事をいやが上にも見せつけられる1年が過ぎ、年長に進級したエンリケにとって運命的な出会いが訪れる。

新年度が始まって1週間くらいたった頃だろうか…。
外で元気に遊ぶ年少の子どもたちの中で一人、教室でぽつねんとしている子どもがいた。

真っ白な肌に光色の髪、まるで春の日差しの中で揺れる生まれたての葉っぱのような綺麗な淡い黄色がかった緑色の瞳をしたその子どもは、まるで宗教画に出てくる天使様のように愛らしい。

「…自分…他の子と遊ばへんの?」
と、思わず声をかけると、子どもはその可愛らしい顔には不似合いな太めの眉をへにゃんとハの字にして、

「…俺…他の子みたいに遊べないんだ…」
と、少し悲しそうに俯いた。


その言葉に、こんなに綺麗な子どもが自分と同じなのか…と、まるで雷に打たれてもしたような衝撃が走る。

たくさんの友人に囲まれていないということは、別に恥ずべき事でもなんでもない。
だって、こんなに綺麗な…今まで見たこともないくらい綺麗な子が一人でいるのだから…。

後に当時その子どもアーサーは単に病弱で外遊びが出来なかっただけだったという事を知る事になるのだが、その頃には他はどうでも良くなっていた。

この子と一緒にいる、この子の一番でいる事が出来れば、それがなによりの自分の価値であると、エンリケは強く強く思い込み、それから毎日アーサーをかまうようになる。
ついでに先生達にも身体の弱い年少の子の面倒をよくみる年長組の子どもと認識され、エンリケの評価は上がっていった。

それからは幼稚園が楽しくて楽しくて、あっという間に1年が過ぎて小等部に進んでも、しょっちゅうアーサーに会いに幼稚舎まで通った。

もちろん2年後、アーサーが小等部に入ればまたベッタリだ。
2年間離れている間にアーサーにもエンリケ以外の友人ができていたが、そんなものは少し裏で脅せばすぐ離れていく。
小学校低学年の頃の2歳の差は大きいのである。

小学校でアーサーと一緒に過ごせた4年間はエンリケにとっては至福の時期だった。
可愛い可愛いアーサー。
誰もがそのアーサーの一番側にいる事を許されている自分に羨望の視線を向けている気がした。

いつしかあれほどコンプレックスを感じていたアントーニョの事もどうでも良くなり、エンリケの学校生活…いや学校だけじゃない、人生全てがアーサーに染まる。
アーサーさえいれば何も要らない。
他の人間なんてどうでもいい。





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