死にたがりの王子と守りたがりの王様の話6章_7(完)

「お前さ…俺にくらい本当の事言っておいても良かったんじゃね?」

美しくも温かいその光景を目の端に移しながら、ギルベルトはようやく立ち上がって、今回の仕掛け人の隣へと移動した。


「麗しい光景を目に焼き付けてたのに…邪魔しないでよねっ」

…と、言いながらも、エリザベータはフラフラな忠臣ギルベルトのために、少し離れたところの椅子を足で蹴って勧めてくる。

「俺様の扱い、邪見すぎ…」
と、ため息をつくギルベルトに

「あんたも何か萌えをくれるんなら、考えてあげないでもないけど?」
と笑った。

「じょ、冗談だろ、俺様今のままでいいわっ」
と、その言葉に焦るギルベルトに、エリザはまた笑う。

「まあでも……」
と、そこでふとエリザが少し考え込むように視線を天井に向ける。

「実際はわかんないのよね…」
「ああ?何が?」
「うん…私の家って王族付きの薬師だって言ったじゃない?」
「ああ」

「あんたさ、口固い?」
「まあ…一応国の中枢にいるわけだしな。口固くねえとまずいだろ」

それが何か?と、視線で問いかけるギルベルトに、エリザはアントーニョ達にチラリと視線を向けると、ギルベルトを隣室へとうながした。


「これはね、王様にも秘密よ?
ただ…今後何か起こった時のために状況が有利になるかもしれない情報と思っておいて」

リビングの椅子に腰を掛けて、エリザは正面のソファに座るように、ギルベルトを促した。


そこでいつも持ち歩いている医療鞄の底から出す巻物。
それをサ~っとテーブルに広げる。
それは家系図のようだった。

「これがね…アースロックに侵略された当時の王」
とエリザが指差した王の隣には王妃。

その間から伸びている線は2本。
王女と王子。

「…ってことは…この王女がアーサーの?」
とギルベルトが指差すと、エリザは小さく首を横に振った。

「王女は薬師だったうちの一族といち早く避難してて…その時の当主の長男と一緒になってその間に生まれたのが私」

「へ???」
驚いて振り返るギルベルト。

エリザの顔をまじまじと見るそのギルベルトの視線に気づいたエリザは苦笑した。

「ペリドットアイを受け継いでたのは王族とその親族と…せいぜい神官の一族くらいだから。うちは一介の薬師だし、父はグリーンアイではあったけど、ペリドットアイではなかったから、母はペリドットでも私は普通にグリーンアイ」

そのエリザの言葉にギルベルトはあれ?と思う。
その疑問にも気づいたエリザがうなづいた。

「そう、片親に全くその要素がないのに、ペリドットアイの子が生まれるっておかしいのよ。両親ともにペリドットか、せいぜい本人がペリドットじゃなくてもペリドットのハーフくらいじゃないとペリドットにはならないの」

「えっと…待て。色々わかんねえ。アーサーの母親は王女じゃねえの?
王の親族ってことか?
それにしたって、アースロックの王の子ならペリドットにならねえってことだよな??」

わからないことが多すぎて、若干混乱気味に問うギルベルトに、ここからは絶対に秘密だからね、と、エリザは形のいい唇に人差し指を当てた。

「元々フォレスト民族って普通の人間とは少し違うところが多々あるの。
他の民族との交わりでだいぶその特殊性も薄れちゃったけど、限りなく同じ民族の間でしか婚姻をしてこなかった王族と神官の一族にだけは、その特異性が残されてるのよ。
ペリドットアイもその一つなんだけどね。
もう一つ…大きな特徴の一つが、特殊な条件がいくつか重なると性別が変わる事なの」

「へ??」

「男性体に限るんだけどね、とても心が通じ合った相手と関係を持つと、子供を身ごもることがあって、子供を身ごもると女性体になるの。
子供を産んだ後には男性体に戻ることも女性のままでいることもできるらしいんだけど…」

「ちょ、待ったっ!つまり、アーサーの母親ってのは、その王子の方ってことか?
でもなんでそういう話に??他の問題は??」

「うん。私は当然赤ん坊の頃の事だし確かな事はわからないし、これは仮定ね。
元々王子は神官と幼馴染で仲がとても良かったんですって。
もちろん王子は国の跡取りだし、神官は聖職者だから、普通なら関係を持つなんて事はなかったんでしょうけど…数年にわたる戦いももう敗戦色が濃くなってきて、城が落ちそうな状態になった時、もう最後だからって事で二人は結ばれることにしたんじゃないかしら…。

それを裏付けるみたいにね、処刑された王族の中に、跡取りの王子がいなかったの。
その代り、なぜか王女としてアースロックに連れて行かれたペリドットの女性が一人。

同じくペリドットである神官との交わりで王子が子供を身ごもって女性となったと考えたら、アーサーがペリドットの瞳をもって生まれてきたのもうなづける。

自身が女性体になった事でお腹に愛しい神官との子どもが宿っているとわかったから、アースロックの王の側室にされることになっても、死を選ばず生き延びたんじゃないかと思うんだけど…。

そして…万が一にでも自分が身ごもった事で女性体になった事でアーサーが王の子じゃなく神官の子だとわかって害される事を恐れて、その後も男性に戻らずに女性体でいたんじゃないかしら」

「つまり…アーサーは生粋のフォレスト民族って事か?」

「少なくとも…アースロックの先王の親のどちらかが実はペリドットだったとかじゃない限り、アースロックの先王の子じゃないことは確かね」

「おま…それ早く言えよ……」
本気でギルベルトが脱力すると、エリザは小さく肩をすくめる。

「本当の両親については仮定にすぎないし、ここの王様はそのあたりのこだわりはなさそうだったから、下手にややこしい仮定にすぎない推論でアーサーを混乱させない方が良いと思ったのよ」

「まあ…確かにトーニョは守れればアーサーのルーツなんざどうでもいいんだろうが…」

「でしょ?
とりあえずこれは必要な時が来るまでは、あたしとあんただけの秘密だからね?
子ども出来る事とか女体化とか、ホントは一族以外には絶対に言っちゃまずいことなんだから」

「ふ~ん。じゃ、なんで俺様に教えてくれんだよ」

「ん~、私もこれからここに骨を埋める事になるからじゃない?」

身については守らなくてもいいけど、立場や地位はきっちり守ってよねっ。
ピシッと自分に指差して言う美女とはきっと今後ずっと二人三脚でやっていくことになるのだろう。

「ああ、立場と地位は守ってやっから、お前も俺様の胃壁守れよ?」
ケセセっと笑うギルベルト。

おそらくもう一人で胃壁の心配をしなくてもすみそうだ。


今後は死にたがりの王子も守りたがりの王様も、美人薬師の立場と地位も、優秀な宰相の胃壁も、このちょっと困った趣味はあるものの、度胸と頭が良い相棒と二人、協力しあって守っていくことになりそうである。




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