死にたがりの王子と守りたがりの王様の話5章_3

――あった…。

自室とアントーニョの寝室の丁度間くらいにかけてある絵画。
その裏にレバーを見つけてそれを引くと、丁度その下あたりに通路が現れる。


アーサーも腐っても王族だ。
大抵の城には有事の際に要人を安全に逃がすための抜け道が隠されている事は容易に想像出来た。
こうして探ってみたら案の定である。

――これで護衛を突破できるな。

どこへ出るのかはわからない。
そんな事を考える事もなく、アーサーはランプを手に迷わずその通路に足を踏み入れた。

そして入るなりツルリと足を滑らせて、何か紐のような物を掴むと、ガタン!と後ろで音がする。

慌てて振り向くと、入ってきたドアが閉まっていた。
突起のようなものもなく、どうやら外からしか開けられないらしい。

おそらく追手に気付かれないように、この紐を引っ張ると全てが元に戻って通路が隠されるのだろう。


もう戻るに戻れない…そこでアーサーは初めてまた考えなしな自分の行動を後悔し始めたが、元々この通路を進んでアントーニョの行動を確認するつもりだったのだ、と、気を取り直して、今度はランプをかざしながら慎重に歩を進めていった。

静かな中にコツン、コツンと響く靴音。
暗さも静けさもそれほど恐ろしくはなかったが、その静寂のせいで色々な事が頭をぐるぐる回る。

何故護衛を避けて抜け道から来たのかと言われたら……帰り道にふと絵を見たらズレていて、それをよくよく見たらレバーをみつけたとでも言えば、怪しまれないだろうか…。

もしこの道が城内ではなく城の外に通じていたら?
城の中に戻れるのだろうか?
門番が自分の事をわかってくれればいいのだが……。

アントーニョが自分の事を不要だと思っていたなら、どうやって死のう?
このあたりに毒薬になりそうな薬草が生えていればいいのだが……。

色々不安になってきて、アーサーはそんな諸々を振り切るようにズンズンと暗い階段を降りていった。

そして…そうしてどのくらい歩いたのだろうか…。
進んだ先に見えてきたのは小さな扉。

もちろんアーサーはそれを躊躇なく開いて外に出た。


外に出ると何故かまだ暗くて、モップやら箒やらが詰まっている。
それを押しのけてさらに先にある扉を開いて納得した。

どうやらここはキッチン横の掃除道具入れらしい。
すぐ側に勝手口がある。

――それなりの格好をしていれば、使用人達に紛れてすぐ外に出られるというわけか…。
確かに逃げるには良さそうだ。

そんな事を考えていると、何やら外が騒がしい。
そこで窓から少し身を乗り出してみると、何やら仰々しい鉄格子のはまった馬車が見える。

――なんだ?
好奇心にかられて勝手口から庭に出たアーサーは、そこに見慣れた姿を認めてホッとした。

「トーニョっ!」

ギルベルトと並んで立つ探し人に、パタパタとスリッパのまま駆け寄って行くと、アントーニョは心底驚いたように目を丸くして、しかしすぐ自分のマントに手をかけながらこちらも走り寄ってくる。

「アーサー、自分、何しとるんっ!どうしてこんなとこに?!
ああ、それよりこんな格好で風邪ひいたらどないするんや。これ羽織っときっ!」

と、アントーニョはパサリと脱いだマントでアーサーを包んだ。

とたんにアントーニョの体温とぬくもりを感じてホッとする。
ああ、別に誰か大切な相手が出来たわけでもなくて、本当に仕事だったのか……。

それで心底安心して、
「ああ、なんかトーニョがいなかったから探しに廊下に出たら変な通路みつけて……」
と、予め用意しておいた答えを口にするアーサーの言葉は不意に遮られた。

「お前なんでこんなところにっ!!!」
アントーニョの台詞とほぼ同じその言葉は、しかしとんでもない場所から飛んできた。

そう…鉄格子の中から……


ガタガタっ!と鉄格子の揺れる音と聞き覚えのある声にゆっくりそちらに顔を向けると、そこには今本気で見たくない顔が並んでいる……。

「お前、弟のくせに、ふざけんなっ!!助けろっ!!!!」

と叫ぶ二人はまさにアントーニョと出会うきっかけを作った男達……薄汚れはしているものの、アースロックの貴人の着る軍服を身にまとった正妻の二人の王子…異母兄達だった。

おそらくアーサーなしにはロクに撤退も出来ず、ウロウロとさすらっていたのだろう。

何も今更捕まらなくても…。
ああ、ギルベルトもアントーニョも驚いた顔をしている。

あんなに優しくしてもらっていて実は騙してたなんてしれたら、さすがのアントーニョだって怒るだろうし、軽蔑もするだろう。

別に騙すつもりはなかった…ただ普通に側にいたかったのだと言ったところで、今更信じてもらえるとは思えない。
嫌悪の表情で自分を見るアントーニョの顔が目に浮かぶようだ。
怖くて顔を上げることもできない。

もう…全てが終わりだ……。

頭と胃がズキズキと割れるように痛んだ。
今回はさらに胸が耐え切れないほどひどく痛む。

もうどこが痛いのか苦しいのかもわからなくなった。
あまりの苦痛に意識が遠のいていく。


Before <<<      >>> Next


0 件のコメント :

コメントを投稿