死にたがりの王子と守りたがりの王様の話4章_5

こうして一日千秋の思いで待ち続けているうち、ギルベルトが無事薬師を連れて戻ってきた。

エリザベータ・ヘーデルヴァーリ。
元王室付きの薬師の一族なのでフォレストの薬草その他にかなり通じている女性らしい。


思いのほか若い女性だったので、本当に大丈夫か?と思わなくもなかったが、説明を聞いてみると随分としっかりしている印象を受ける。

なによりギルベルトが適した人物だと連れて来たのだ。
きっと年齢に関係なく優秀な人材なのだろう。

ということで、とにかく信用がおける人間なのだとすると、重要なのは一つだけだ。
薬師、エリザベータがくれた薬をアーサーに飲ませることにする。

起して飲ませるのが一番確実だとは思うのだが、エリザベータいわく、眠らないと回復しないし、この病は苦痛がひどいため、眠れる時に寝ておかないと、いつ眠れなくなるとも限らないという。

単純に薬を与えるだけでなく、そのあたりの体力などについても細かい気配りを見せるあたりが、やはり出来る人間なのだと、アントーニョは彼女に対する信頼を深めた。

そしてエリザベータの勧める通り、眠ったままのアーサーに、薬をこぼさないように口移しで飲ませる。

これで一安心と、安堵の息をついていると、エリザベータは

「これで一安心…じゃありませんからね?」
と、まるでアントーニョの心の内を読み取ったように、言った。

「病は気からっていうけど…あれ本当なのよ」

さすが王室付きの薬師だけあって、年齢の割にずいぶん落ち着いた貫禄のある様子で、エリザは手際よく薬の調合をしながら話し始める。

「フォレストの人間はね、代々争う事なく、森の奥でゆったりとした生き方をしてたの。
そんな民族だから元々種族的にストレスにすごく弱いの。

もちろん平民はね、外にも行くし、他の民族と接触を持つし、中には一緒になったりもするから、そういう傾向も薄れては来るけど、王族とか貴族とか、フォレストの血が濃ければ濃いほど、その傾向は強いわ。

この子も…ペリドットアイを持っているってことは、王族、貴族の中でもかなりフォレストの血が濃いはずだから、たぶんね、今の状況にすごくストレスを感じてるはず。
ストレスが即病気につながることも多いし、今回のも半分はそう。

だからね、元気にさせたかったら、とにかく安心させてあげて?
もちろん薬も治療も必要だし、私も出来る限りの事はさせてもらうけど、ぎりぎりのところで生死を分けるのは、愛情と信頼をどれだけ感じさせることができるかどうかよ?」

「それは…つまり、親分がちゃんとこの子の事守ったるって事を感じさせてやればええってこと?」
「まあ…そういう事ね」
「よっしゃっ!!任せたってっ!!!」

そういう事ならのぞむところだ。
守る気なら満々だ。



Before <<<      >>> Next 


0 件のコメント :

コメントを投稿