死にたがりの王子と守りたがりの王様の話4章_4

――ああ、これでひとまず安心や……。

ギルベルトが薬師を探しに行ってしばらくすると、アーサーの容体は少し落ち着いたように見えて少しほっとはしたものの、単に一時的に小康を保っているだけかもしれないので、安心はできない。


苦痛のため疲れ切ってしまったのだろう。
アーサーが青い顔をしたままゆっくりと目を閉じると、とたんに不安がよぎる。

この子がもしこのまま目を開けなかったら…?
そう思うと気が狂いそうになった。

そんな可能性だってないとは限らないのだ。
だって、この子は自分よりも随分と小さくて細くてか弱い。
いつ、この小さな心臓が鼓動を打つのをやめてしまうかわからないじゃないか…。

怖くて不安で、起してしまいそうになるが、眠れる時に眠っておかないと、それはそれで体力を奪って容体を悪化させるかもしれない。

ギルベルトには普段は自分しか乗せない愛馬を特別に貸し出したので普通よりは早く着くだろうが、それでも行って戻るだけでも1日以上はかかる。
その間にアーサーの容体が悪化しないことを祈るばかりだ。

神様、お願いや。この子を助けたって…。

額や髪を撫で、その体に触れることで、まだ呼吸を止めて冷たくなっていないことをかろうじて確認しながら、アントーニョは眠れぬ夜をすごした。

こうして一睡もできないまま朝を迎えると、アーサーの長い金色のまつげがかすかに揺れ、ゆっくりと瞼が開いた。

まだぼ~っと半分寝ぼけているような焦点の定まらないペリドットが、ぼんやりとアントーニョを見上げ、小さな弱々しい声が

「トーニョ…ずっと……いたのか?」
と尋ねてくる。

なんとも守ってやりたくなる感じである。

「ああ、気が付いたんやね。
このまま目ぇ覚まさんかったらと思うたら、怖くて目ぇ離されんかってん。
今は少し容態落ち着いとるんかな。顔色も少しよおなってきたし、良かったわ」

と、ずっとそうしてやっていたまま、髪を撫で、こみあげてくる気持ちのまま額に軽く口づけると、アーサーは邪気のない様子で

「…お前が……そばにいてくれて…すごくホッとした…。嬉しい」
と、言うと、ふにゃりと笑った。

可愛くて愛おしくて…色々で胸がつまった。

この子は本当は天使なのではないだろうか。
人間がこんなに清らかで儚げで愛らしいわけがない。
そして…この子は唯一アントーニョの願いをかなえ、アントーニョを幸せにしてくれる存在でもある。

アントーニョが側にいて見守っているだけで、嬉しいと言ってくれるのだ。
もう誰も望まないアントーニョの幸せをこの子は望んでくれる。
この子だけがアントーニョの存在意義を与えてくれるのだ。

「そか。アーサーが嬉しいと親分も嬉しいで。
ああ、自分、ほんま可愛えなぁ。親分の一番のお宝ちゃんや」

嬉しそうに微笑むアーサーに微笑み返すと、またふにゃりと天使の笑顔。
愛おしくて愛おしくて、顔中に口づけを落とすと、くすぐったそうに笑う。

「ああ、ほんま自分さえおってくれれば、親分なんも要らんわ」
と言ったのは本当に本心だ。

この子がいればもう他には何も要らない…アントーニョは強くそう思った。


アーサーの小康状態はその後もしばらく続いているらしく、食事はいつもにもましてごくごく少量しか取れないものの、痛みに身をこわばらせることもなく、またしばらくして眠りにつく。

もちろん、アントーニョはそのそばにずっと付き添っていた。
ギルベルトが薬師を連れて戻るまでは安心できない。



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