頭や背を撫でる手のぬくもりがない…それだけでまた胃を中心にズキズキと痛みが広がっていく。
それでもそう遠くない場所で弾んだ声がするのに重い瞼を無理やり開いて確認すれば、見慣れない女性と、嬉しそうにその手を取るアントーニョの姿が目に入った。
サラサラと長い茶色の髪に花の髪飾りを挿したその女性はスタイルも良く顔立ちも大層美しい人で、綺麗な茶色がかった黒髪を無造作に後ろに束ねた長身の、男らしくも精悍な若き王と並ぶとずいぶんお似合いのように思えた。
少なくとも、自分のようにちんちくりんの誰からも疎まれてきた同性の人間よりはよほど似つかわしい。その事実に打ちのめされる。
――ああ…王が飽きるまでという話だったけど…もうその時がきてしまったのか…
覚悟はしていたものの、ようやく素直に好意を享受できそうになった今、なんの覚悟もなく突き付けられた現実に、アーサーの気力は根こそぎ奪い取られていった。
この世で唯一、自分が生きている事を許容し、望んでくれていた相手は、あっさり他に大切な相手を見つけてしまったのだ…。
その事実は望まず諦めていた時より、はるかに大きな絶望をアーサーに与えた。
生きていても結局自分は望まれる事はない……一時的な希望はその後の永遠の絶望しか生まないのだ……
身体が必要ないと判断したのだろうか…。
それまで確かに普通に繰り返していた呼吸が出来なくなる。
息苦しさと痛みで、今度こそ死んでしまうのだと思った。
それでもせっかくアントーニョが美女といて嬉しそうにしているのだ。
せめてそんなところに水を差して、厄介者と思われたくはない。
その一心で必死にブランケットを握りしめて、気づかれないようにと苦痛をこらえて息を殺していると、意識が遠のきかけるが、その努力は無駄だったようで、焦ったように近づいてくる気配に、遠のきかけた意識がまた戻された。
ああ…もうこのまま死にたいのに……。
迷惑をかけずにひっそりと息を引き取ることすらできない自分に、アーサーの絶望はさらに深くなっていった。
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