死にたがりの王子と守りたがりの王様の話4章_1

ちょっと苦しいとかそんなレベルではない。
ありったけの薬を飲んで数十分後、アーサーはすさまじい痛みにのたうち回っていた。

もう痛すぎてどこが痛いのかもわからない。
腹部全体に吐き気すらもよおすほどの壮絶な痛みが広がる。

ああ…これは死ぬのかも…と一瞬思うものの、もう痛すぎて、死ねる嬉しさもなく、とにかくどうでもいいからこの凄まじい苦痛から脱却したいという事しか頭に浮かばない。

…というか、こんなとてつもない苦痛を味わうくらいなら生きていた方がマシだった…と、死にたがりやのアーサーでも本気で思った。
安易に思い付きで起こした行動を、これほど後悔したことはない。


助けを求めようにも身を起こすことすらできず、ただただ苦痛を紛らわすため、片手で胃のあたりを押さえ、片手でシーツを握りしめる。
いっそ気を失いたいくらいだが、痛みのあまり眠ることすらできそうにない。

うずくまるように身体をぎゅっと丸め、唇をかみしめ、ひたすら痛みに耐えるほか、もうどうしていいかわからない。

普通の子どもなら親なり保護者なりに苦痛を訴え泣きつくものなのだろうが、助けて…のあとに名を呼ぼうにも、唯一アーサーに優しかった母は遥か昔に亡くなっている。
他には誰も自分がどんなにつらかろうと困っていようと助けてなんてくれる相手はいなかった。

助けて……助けて………

アーサーのその声を聞いてくれる唯一の相手はアーサー自身も死なないともう会えない場所にいるのだ。
自分を苦痛から救ってくれる人間なんて、この世のどこにもいはしない。
そう改めて自覚すると、やっぱり一刻も早く死にたくなった。


どのくらい一人そうしてうずくまっていたのだろうか…。

ドアが開いて人の気配がした。
ドアのところで何か言っている気もするが、痛みに意識を取られた頭は言葉を拾ってはくれない。

今まで…ここまでひどく体を壊した事はなかったが、アーサーとて人間なので体調を崩したことくらいはある。

そういう時はたいていメイドや誰かが、アーサーが一人体調が悪くて横たわっていることに気づいても、触らぬ神に祟りなしとばかりに、黙って反転、部屋を出ていくドアの音がするのが常だったので、誰かがそこにいるというのが、今の自分の状況になんらかの変化をもたらすという感覚がなかった。

しかし今回は不思議なことに人の気配は近づいてきて、あまつさえ自分の方がつらそうな悲痛な声で、
「アーサーっ、どこか痛いんかっ?!苦しいんかっ?!!」
と、尋ねてくるではないか。

そこでアーサーはハッとする。

この声…この声は……

痛みのあまりよく回らない頭でも、ここ数日ずっと自分の傍で自分の…いや、正確には自分と宰相のギルベルトの嘘を信じて、自分の事を慰め、守ろうとしていてくれた人の良い若き国王だということだけは認識できた。

――大丈夫やで。怖ないで。親分が守ったる、助けたるから安心し。
ここ数日何度も繰り返し与えられた言葉、優しい声音が脳裏を横切る。


まるで愛おしいものにでも向けるような視線を送りつつ、大切な宝物にでも触れるようにそ~っと優しく触れてくるアントーニョの態度を、自分に対する愛情だとかそんな誤解をして失望するのが怖くて、逃げてしまおうとした結果が、今のこの苦痛なわけなので、アーサーも迷う。

手を伸ばしてやっぱり面倒そうに無視されるのは辛い、怖い、悲しい…。
しかしそうこうしているうちに、精神的苦痛が加わったせいか、痛みはさらに耐え難いものになってきた。

――…痛い……くるし……たすけ…て……

もうそれは半分無意識だった。
痛くて苦しくて、もう耐えられそうにない。

手を差し伸べてくれることを期待するというよりは、ただ苦痛に耐えきれずに伸ばした手は、しかしふり払われる事はなく、逆に暖かく大きな手に包まれた。

「すぐギルちゃん呼んで薬もろうたるからなっ!すぐ助けたるからっ!!」
辛そうに震える声に震える手。

やがて再度ドアが開く音がしたのはギルベルトなのだろう。

「アーサー助けたって!!死んでまうっ!!!」
というアントーニョの声は、ひどく切迫した必死なもので、まるで彼が自分が生きることを強く望んでいるようだ…と、アーサーは痛みでぼ~っとする中で思った。


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