死にたがりの王子と守りたがりの王様の話3章_7

こうして若干の不安要素を含みながらも、エリザベータを連れてギルベルトは城までの道を急ぐ。
その道々、ここまで関わらせるなら…と、仕方なしに、アーサーの事情、記憶喪失と詐称していることなど、諸々を伝えると、

「大丈夫っ!障害があるほど萌えるからっ!!」
と、これまた良い笑顔で断言されて、ギルベルトの不安はさらに増大していくのだった。

それでも城に付くと、エリザベータは、それまでの怪しい発言をしていたテンションなど全く見せず、神妙な顔で架空の病名、架空の治療法などをアントーニョに説明していく。
それまでのやりとりがなければ、ギルベルトですら信じてしまいそうな演技力、説得力だ。

「これ…今手持ちが少ないから、確実にこぼさず飲めるように、飲ませて下さいね。
口移しで”」
と、これも真剣な顔で言って、アントーニョに薬の入ったグラスを差し出すエリザベータ。

果たして信用して良かったのか…
自分が連れてきたのだが、“口移しで”という言葉が出てきたあたりで、ギルベルトは悩む。

いや、もうこのさい、元フォレストの王宮付きの薬剤師の子孫であると自称しているエリザベータ本人の申告通り、単に男同士の絡みが見たいとか、本当にそんな理由なら別に構わないのだ。

ギルベルトにはそういう趣味は全くないが、アントーニョがそれでいいというなら、王の子供が王位を継ぐという形式ではなく、親族の中から国民投票で次代の王が選ばれるテソロの国では、別にアントーニョが男に走ろうと、結果子供を持つことがなかろうと、誰も気にしない。

まあ、“口移し”くらいでそこまで話を飛躍させることもないのだが、この女が今後側に付くとなると、そういう方向に発展する可能性もあるだろう。
それでも…王が暗殺、もしくは戦死なんてことになって国内外が荒れるよりはずっといい。

そう、それはいいのだが、“口移し”ということは、いったんアントーニョが口にするということで、女が万が一害意を持っていて、あの薬が毒薬だったりすれば大問題だ。

「…じゃ、俺が……」
やはり危ない橋は渡れない。

エリザベータがアントーニョに言っているのを承知で素知らぬふりでグラスを取ろうとしたギルベルトは、何かが飛んでくる気配に思わず上体を反らした。

「…自分……邪な目的でこの子に触れようとしたら、殺るで?
と、絶対零度の笑顔で言うアントーニョから放たれた椅子がギルベルトのいた場所を通り越して壁にぶち当たり木端微塵になっている。

いやいや、俺様お前の身の安全を案じてるだけだしっ……と言おうと口を開きかけたところに、なぜか鉄の板……かと思えば、なぜかフライパン…を持った笑顔のエリザベータ。

「王様の言う通りよ?私アンアサ派だからっ。邪魔したら料理するわよ?」
という声も、鬼気迫るものがある。

アンアサ派?え?え?それなんだよっ!

と、わけがわからずギルベルトが眼を白黒させている間に、アントーニョはさっさとグラスを取って中身を口に含むと、意識のないアーサーの半身を起させている。

幸いにして毒とかではなかったらしく、少しずつゆっくりと口に流し込んでいくそれは、アーサーの喉をきちんと通過していっているようだ。
それを心底ほっとした様子で見守るアントーニョ。

エリザベータいわく、アーサーが飲みすぎた風邪薬はそう効力の強いものではないのだが、胃を荒らすため、飲みすぎによりひどい胃痛が引き起こされたのだろうということだった。

もちろんアントーニョにはアーサーは記憶喪失という事になっているため、そんな薬を持っていて、そんな用途で飲んだことは秘密なため、エリザベータの提案で、今飲ませている胃薬は、普通の病気を治す薬だと伝えている。

ということで、その液体が実は単なる胃痛を治す胃薬にすぎないと知っているギルベルトとしては、とりあえずそれを口にしたアントーニョに異変がないことのほうに、安堵した。


エリザベータ・ヘーデルヴァーリ

本当に本人が申告するだけの目的で今後ずっと同行してくれるのだとしたら、趣味に暴走さえしないでくれれば、事情が分かっている分、心強い協力者になりそうではある。

その分、ギルベルトの胃壁はまたピンチになる気がしないでもないわけだが……。

まあそれは仕方ない。

一番の目的は、この死にたがりの少年を死なさずに、守りたがりの王様に守らせてやることなのだから。



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