死にたがりの王子と守りたがりの王様の話3章_4

こうして各所でせっついて回ったため、予定よりも早く出発するめどが立ち、冒頭のようにギルベルトに勧められてアーサーの食事の様子を見にキッチンへ寄ったアントーニョ。

本当は美味しいトマト料理を食べさせてやりたかったのだが、すでに食事が出来ていたためシェフに断られ、仕方なしに小さなプチトマトを二つほど食事に添えることで手を打った。

それをいつものように自分の食事と一緒にワゴンに乗せ、自らアーサーの部屋へと運ぶことにする。

ここよりずっと安全な王城へもうすぐ出発出来る。
だから何も不安に思う事はないのだ。
それを早くアーサーに教えてやりたい。

それでもしばらくは不安な様子はしているのだろうが、国で最も安全な王城の奥でアントーニョがずっとついていてやれば、いずれその不安も解消されることだろう。
早く自分に守られて安心しきった様子で笑うアーサーが見たい。

そんな浮かれた気分でアーサーの部屋のドアを開けたアントーニョの目に入ってきたのは、全身の血が凍りつくような光景だった。

「アーサーっ!!!どないしたんっ?!!どうしてもうたんっ!!!」

眠りを妨げないようにと、うっすらとつけておいた灯りの中で、まずアントーニョが認識したのは、荒い息づかいだった。
ベッドの上で苦痛に耐えるように体を丸め、ブランケットをつかむ手は震えている。
明らかに様子がおかしい。

「ギルちゃんっ!!!誰かギルちゃん呼んだってっ!!!!」
アントーニョは大声で廊下に向かって叫びながら、自分はアーサーのベッドに駆け寄った。

そこでようやく表情まで確認できたアーサーは、真っ青な顔をして、唇は血の気を失って紫になっている。
急に変化した容体に、アントーニョの全身からも血の気が失せていった。

守ってやる相手が苦しんでいる。
それはアントーニョにとって自分の身体的苦痛などとは、はるかに比べものにならないほどの、耐えがたい苦痛だった。

自分は怪我一つしていないのに、細胞の一つ一つが耐え難い苦痛に襲われている気がして、目からは大量の涙があふれ出る。

「アーサーっ、どこか痛いんかっ?!苦しいんかっ?!!」

こうして自分の方が涙が止まらないアントーニョが声をかけると、そこでようやくアントーニョに気づいたらしい。

アーサーはきつくつむっていた目をゆっくり開くと、潤んだ目をアントーニョに向けた。
そして本当に苦しそうな息の下、

――…痛い……くるし……たすけ…て……
聞き取るのがやっとなほど小さなか細い声で言うと、力なくアントーニョに手を伸ばしてくる。

その震える手を両手で握りしめると、
「すぐギルちゃん呼んで薬もろうたるからなっ!すぐ助けたるからっ!!」
と、アントーニョは自らの額に押し付ける。

いつからこんな風に?どのくらい一人でこうして苦しんでいたのだろうか。
まだ体が弱っているこの子を一人になど何故しておいたのか…。
誰にも気づかれることなく、どこともわからぬ場所で、この子が一人心細い思いをしながら苦痛に耐えていたと思うと、自責で胸が破裂しそうになった。

ギルベルトが駆けつけるまでおよそ5分。
それが数時間にも感じられた。

「アーサーの様子はどんな様子だっ?!」
慌てて部屋に飛び込んできたギルベルトに、普段なら『遅いわっ!!』くらいの文句を言うところだが、もうそんな余裕もない。

「アーサー助けたって!!死んでまうっ!!!」
アントーニョは苦しんでいる愛し子を前に、半狂乱でギルベルトにすがりついた。



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