「へ???」
突飛な王の行動に振り回される日々なので、ギルベルトは大抵のことには驚かない自信があるが、これにはさすがに驚いた。
だって、どう見てもアースロックの人間ぽくない。
さらに言わせてもらうなら、なんで王族の子どもが縛り上げられて転がされてる?
連れて帰らなきゃ周りは責任問題だろうよ。
親のこと、自分のこと、育ってきた環境や、戦場で縛られていた理由…。
なるほど…と、聞かされて納得したのはいいのだが、さすがのギルベルトも正直悩んだ。
逸材だ。とにかく今アントーニョがお守りする気満々になっているし、これだけ薄幸な空気をビシバシ漂わせていれば、うまくすれば一生アントーニョの庇護欲が持ってくれるかもしれない。
しかしこの条件は……。
騙すにしたってこんな嘘は意味は無いし、本当のことなのだろう。
悪意はかけらもなさそうなのだが…
(よりによって敵側の王族かよ……)
下手に嘘をついて置いておけば、少年はもちろん、その責はギルベルトにも及ぶ。
「あ~…さすがに敵の王族って事隠して嘘つかせて置いておいたら、俺様でもやばいな……」
と悩んだ末ギルベルトが頭をガシガシ掻いてそう言うと、少年は静かに言った。
「ああ、だから処刑してくれていい。
でももう苦しいのも怖いのも辛いのも嫌なんだ…。
だから出来れば一思いにやって欲しい」
その表情にはもう不安も恐怖も見られない。
本人いわく15だということだが、12,3歳にしか見えない幼気な少年が死を前にして浮かべるにはあまりに不似合いな、静かな諦めと安堵が見て取れて、自身も可愛がっている弟がいるギルベルトをやりきれない気持ちにさせた。
こうして腕組みをしたままうんうん唸る事数分。
「わかったっ!」
しばらく考えこんで、ギルベルトはパンッ!と手を打った。
「お前さんは、記憶喪失だっ!」
「はあ??」
ピシっと指を指してそう言い放つギルベルトを、少年は初めて憂いもない純粋な驚きだけの表情で見上げる。
それにニヤリと不敵な笑みを浮かべると、ギルベルトはクシャクシャと少年の小さな頭を撫で回した。
「下手な嘘がまずければ、言わなきゃいいんだよなっ!
記憶喪失だから、何も覚えてません、適当に想像して下さいってことでっ。
どうせ城から出さねえんだし、それで無問題だっ。
俺様天才ッ!あったまいいぜ~!」
自信満々に無茶を言う姿はさすがに自ら最前線で特攻するなんていう無茶をしでかす国王の幼なじみだ…と、二人をよく知る人物がこの場にいたらため息まじりにいうところだろうが、あいにくというか幸いというか、この場には当のギルベルトと薄幸な少年しかいない。
そして
「そんな無茶な……」
というその少年の反論は
「敵国の王族ってことになれば、楽な死に方はさせられねえし、諦めとけっ!」
と、封じ込めておく。
「それより王の安全に貢献したってことになれば、数年後には生まれなんてチャラどころかお釣りくるから、報酬持たせて開放したって全く問題ねえっ。
なにしろお前さん逃したら、あの特攻野郎を城につなぎとめておけるネタがねえし。
もう決まりだなっ!」
ギルベルトがそう宣言したところで、薄幸なだけに流されやすい少年は反論の言葉を失った。
こうして【王様に守られる】という不可思議な仕事の雇用契約が、ギルベルトと少年の間で結ばれる事になったのである。
そして”目覚めた時に最初に目に入れる相手は王”と、どこのお伽話だと思うようなシチュエーションもその契約に入れられたため、少年…アーサーは再度麻酔で眠りにつくことになった。
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