死にたがりの王子と守りたがりの王様の話2章_1

「な~、可愛らしいなっ。めっちゃちっちゃい、めっちゃ白い、髪なんかキラキラふわふわやでっ!」

普段はやめろと血反吐を吐くまで声の限り叫んでも一人馬で疾走していくクセに、珍しく馬車で帰城する王、アントーニョのテンションの高さに、ギルベルトはため息をつく。

いったい今までの俺様の苦労はなんだったんだ?
あれか?最初からペットか可愛らしいガキでも与えておけば大人しくしてたのか?

がっくりと肩を落とすギルベルトの横で、王のハイテンションなおしゃべりは続いている。


「アースロックの悪人どもからちゃんと守ったらなっ!
城ついたら、守りやすいように親分の隣の部屋に私室作るように手配してや。
怪我とかせんように下はふかふかの絨毯しいて、家具も角とがってへん、丸みのあるもんな」

あ~、でもそれがあったか。
守るためには、あくまで”悪人に狙われている”という要素が必須か…。

ギルベルトは頭痛を覚えて眉間に手をあてて息を吐き出した。


もう王の護衛なんだか、ヒーローに憧れる子どものお守りなんだかよくわからない。

将軍としてのアントーニョは確かに群を抜いて強くて頼れる男だったが、守られるという事にこれほど向いてない男も珍しく、守られて欲しい王としては最悪だ。

アントーニョが王位について以来、ギルベルトの胃が痛まなかった日はなかったといっても良い。
しかし自分の努力でなんとかなるならと、ギルベルトは色々学び、身につけ、頑張った。

それでも相変わらず王は最前線で戦斧を振り回してギルベルトの胃痛をさらにひどくしてくれたわけだが、今回の思いがけない拾い物は、そんな自分をいたわる神様の思し召しなのではないだろうか。

そんな事を考えながら、ギルベルトは本来王の移動用の広い馬車内のベッドに寝かせている少年に目を向けた。

この際どこの誰かなんてどうでもいい。
本人がどう言おうと、これは悪者に狙われている可哀想な子どもで、アントーニョが楽しく守るための存在だ。

理想としては…一緒に戦場になどということにならないよう、弱く丈夫でない人間なら更に良い。
見た目からすると、その条件にあっていそうだが、実際はどうなのだろうか…。

とにかくアントーニョより先に話をして交渉するのが重要だ。
アントーニョが最初に見つけた時、かなり怯えていたらしいから、脅して好条件をちらつかせる飴と鞭でなんとかなる気がする。

メリット・デメリットをきちんと説明した上で契約という形を取るのもいいかもしれない。
この際手段なんて選んでいられない。

そう秘かに決意すると、ギルベルトはごそごそと医療用のバッグを漁る。
取り出すのは重傷の患者を治療する時の麻酔薬。
移動中は馬車からアントーニョを追い出すのは無理そうだから、離すための用事が作れる城までは少年には眠っておいて欲しい。

「ちょっと悪いな。」
と、ガーゼに薬を含ませたものを手にして少年の方へと身を乗り出すと、アントーニョは当然、それに目を留める。

「それなん?」
「ああ、麻酔な。
身体弱ってるっぽいし、きちんと治療出来る城までは寝かせておいた方がいいだろ」
そう言うと納得したようだ。

「あ~…あんなとこに放り出されとったもんな。
城ついたら栄養あるもん食わしてゆっくり休ませたらな…」
と、そっと少年の髪を撫でる。

「これからは親分が絶対に守ったる。もう二度とあんな怖い目にあわせんからな。安心し」

普段の大雑把さが嘘のように、王が少しずれていたブランケットをかけ直し、壊れ物を扱うようにそ~っと少年にふれる様子を見て、ギルベルトは決意をさらに固くする。

とにかくこの少年には守られる存在になってもらう。
国の存亡がかかっているのだ。
意地でもなってもらう。俺様の胃壁のためにもっ!!



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