逃げる恋ならおいかけろ7

そんなことを考えながらポルトガルがベッドの上でゴロゴロしている時、イギリスの部屋では枕を抱えたまま、マカオが立ちすくんでいる。


「あの…私どこで休めばよろしいでしょうか?」
と、聞くのは、寝室だけあってベッドの他にはソファなど寝れそうな場所がないからで、それに対してイギリスはあっさり

「二人寝れない狭さじゃないし、一緒に寝ればいいだろ?
安心しろ、襲わないから」
と、寝間着に着替えながら言う。

「お、襲うって…」
と、苦笑するマカオ。

まあ強いには強いのだろうし、話してみれば、ああ、年上なんだなと思わなくはないのだが、見た目が可愛らしすぎて襲われる気はさすがにしない。

この人と自分が恋人同士なんて、普通に考えればめちゃくちゃ無理がありますよね…と、思うわけなのだが、さきほどまでの完璧な恋人モードのイギリスを見たポルトガルは半分くらいは信じているかもしれない。



さて…信じたところで引き止めてくれるのだろうか…それとも……。

家主の許可がでたところで、ここ最近よく一緒に過ごしてだいぶ慣れてきた事もあって遠慮無くベッドの端に座り込んだマカオがそんな事を考えていると、イギリスも何故か横たわらず、マカオと並んで腰を掛けた。

「俺は…追われないで、自分で追うことも出来ずに諦めちまったから偉そうな事は言えないんだけどな…」
と、愛用の可愛らしい茶色のクマのぬいぐるみを抱きしめて苦笑するイギリスに、マカオは少し驚いて目を見はった。

「イギリスさんも…お好きな方がいらしたんですか?」

ここ数ヶ月一緒に過ごしてわかったこと。

国としては確かに大国なのだが、イギリスはプライベートになるとその可愛らしい容姿と同様、なかなか可愛らしい趣味をしている。
料理はダメだがお茶を淹れるのは上手いし、相手によく気を使う。

親しくなるまでは程良い距離感を保ちつつ、しかし親しくなるととても親切で、少しウェットなところのあるこの新しい友人を、マカオは非常に好ましく思っていた。

つよがりで…でもどこか脆くて儚くて、自分よりも立場的に強者のはずなのだが、守ってあげたい気分にさせられる。

まあイギリスの方もずいぶんと自分に対して庇護欲を感じてくれているようなので、そのあたりはお互い様なのだが。



「…もし追ってくれるなら…死んでも良いと思ってたんだけどな…」
と、寂しげに言う様子に、きゅんきゅんする。

こんな可愛らしい友人を追わずに放置したおバカさんは一体誰なんでしょう…と、内心憤りながら黙って聞いていると、イギリスは

「…昔の事…なんだけどな。
一度は近づいて…でも国情で一緒にはいられなくなった時、初めて敵対行動を取った。
それまでは素直じゃない俺にしてはまあ素直に好意を示してたんだけどな…。
それでも追ってくれるなら、国情に逆らって国を滅ぼして結果自分が消滅することになっても良いくらいに思ってた。
でも相手は追ってはくれなくて……なんだろうな、今のお前の不安な気持ちはわかるし、自分が失敗した事と同じことさせてる気もするんだけど、それでも…それでも上手くいってくれれば良いなと思ってる。
きっとこれでポルが本気で後悔してお前を追うようなら、なんだか俺自身も救われる気がしたんだ。
だから本当に今回の事はお前のためじゃなくて、俺の自己満足なんだ」


そう言って少し照れくさそうな顔で笑うイギリスをマカオはすごく愛おしく思った。

これまでは香港に言われたから…イギリスに協力させてしまったから…主にそんな気持ちで行動していたのだが、あらためて自分自身の意志で現状を変えようと思った。

「すぐ戻らず、しばらくは…今の状態を維持したほうがいいんですよね?」
「ああ…香港はそう言ってたな。俺もそうは思うけど、お前も不安だろうし…」
「ダメだったらあなたが側にいて下さるんでしょう?」
自分のほうがよほど不安げな表情を浮かべるイギリスにマカオは微笑みかける。

そして、
「どうせ始めたなら、きっちりと成果をあげることを目指します」
と、決意を新たにしてきっぱりと断言するとマカオは立ち上がり、ぽか~んとした顔で見上げてくるイギリスに

「ということで…宣戦布告してきますね」
と、いたずらっぽく笑うと、部屋を出て行った。
もちろん向かう先はポルトガルが泊まっている客室だ。



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