ポルトガルと別れて即イギリスが向かったのは自国の別荘の1つ。
現在マカオと香港と3人で泊まっている。
イギリスにスルーされたらマカオの方に連絡が来るであろう事は火を見るより明らかだというのは3人共通した意見で、案の定来たポルトガルからのメールに香港はニヤリと笑った。
出来れば愛しいポルトガルと揉めたくない…が、第三者であるイギリスまで巻き込んで協力してもらってしまった以上、そうも言っていられないと覚悟を決めざるを得なかったマカオは少し心細げな様子でイギリスの顔色を伺った。
「ん~、普通に仕事をしつつ、最近は折々俺と会っているって返せばいいんじゃないか?」
と、やっぱり楽しげに言うイギリス。
「そうしたらきっとあいつのことだ。『なら俺も混ぜてくれへん?』とか言い出すと思うから、じゃあ俺に聞いてからとか返したら、多分な、『イギリスは俺の長い友達やしあかんとは言わんわ。それよりどうせなら驚かせたいねん』とか言ってくると思うから、『それなら』って了承するといい」
ポルトガルとは長い付き合いである。
お互いの行動パターンはおおかたわかっているものの、今回は事情を全部知っているイギリスに軍配だ。
イギリスに言われた通り応対したマカオに、ポルトガルはまさにイギリスが言った通りの反応を返してきて、香港が爆笑している。
マカオがイギリスに言われたとおりにポルトガルが合流することを了承し、ここ、イギリスの別荘にいることを知らせると、ポルトガルは、ちょうど自分も今イギリスにいるから、明日に行くと返事を返してきた。
それにさらに了承の返事を送るとマカオは小さくため息をついて携帯を置く。
こんな風にポルトガルを試すような事をするのも嘘を付くのも初めてだった。
これで縁が切れてしまったら…そう思うとひどく恐ろしい。
それを口にすることすらできずにただうなだれるマカオの心の中を知ってか知らずか…いや、気づいているのだろう。
イギリスはミルクティの入ったマグをマカオに渡しながら、静かに言った。
「ずっとこのまま、不平不満も全部心の中に押し込めて付き合っていけるのか?
我慢して我慢して…そこまでしても万が一相手の心が他に移ってしまったら後悔しないか?」
その言葉をマカオは脳内で反復してみる。
「私は…我慢しているのでしょうか?」
いつだって昔の距離が遠かった頃よりはマシだと思ってきた。
今日ダメでも会おうと思えば簡単に会えるのだと…。
それは嘘ではなかったはずだ。
それでもこのどこか満たされない感がふとおとずれるのはどうしてなのだろうか…?
自分でもわからずに、すがるようにイギリスに視線を向けると、イギリスは少し困ったような顔で微笑む。
「前回…ポルがお前との約束をドタキャンして俺と飲みに行った時、悲しいとか寂しいとか全く思わなかったか?」
「いえ…」
ああ、香港の前で泣いてしまうくらいには悲しかった気がする。
マカオが小さく首を横に振るとイギリスはさらに続けた。
「それをポルには言ったか?」
マカオはまた首を横に振った。
言えるわけがない。
「そんな事を言ったら、もう二度と会ってはくれないかもしれない…。そんな風に思った?」
ああ、そうだ、そう思っている。
だってポルトガルならきっと素敵な相手を見つけることなどたやすいだろうし、そうしたら世界の東の果ての国ですらない自分なんかの事はもう忘れてしまうかもしれない。
頷くマカオにハンカチを差し出しながら、イギリスはひどく優しい口調で
「それを我慢するって言うんだ」
と教えてくれた。
「中には日本やフランスあたりみたいに言わないでも察する奴もいるけどな、ポルは違う。基本的には言わないと気持ちは伝わらない。
それで本当にあいつがお前を捨てるような見る目のない奴だったら、お前の価値がわかる奴が見つかるまで、俺が側にいてやるから。
香港だっているし、中国だってお前を溺愛してるだろ?
お前は感情の全てを押し殺してまでポルに縋らないといけないくらいひとりぼっちなわけじゃない。大丈夫」
ぎゅっと抱きしめてくる体温が心地いい。
アジアではあまりそういうスキンシップは取らないし、ポルトガルは触れればベッドに行ってしまうような状態だったから、こういうただ安心感と思いやりだけを明け渡すような触れ合いはしたことがない。
なんだか安心する…。
華奢で可愛らしく見えても、イギリスはやっぱり香港も含めて多くの国を育ててきた年上の国なのだ…と、マカオはしみじみ思った。
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