逃げる恋ならおいかけろ3

(大英帝国なんて言われてたけど、この人めちゃくちゃウェットで少女趣味な人だし?
マカオはマカオだし?)

と、そんな二人してオロオロしているイギリスとマカオを眺めながら香港はコーヒーを淹れて、自分の分を啜る。




香港は香港なりに色々考えたつもりだ。

マカオが盲目的に愛している恋人は、浮気はするわドタキャンはするわのクソいい加減な男だ。
本当ならもう別れてくれるのが面倒が無くて一番いい。

まだ弟の方だったら、不動産バブルでやらかして現在貧乏だとは言え、国内には多くの観光名所を持ち、明るく人当たりが良いので観光業での収入はなんと世界2位なわけではあるし、扱いようによっては美味しい事もあるだろうが、兄貴の方はこれといって特筆するべきものもないただの無愛想な小国である。

それどころか、最後まで植民地を手放すのを拒否していて、手放す時には自分の所から持っていったものは全て取り上げて放り出したというケチくさい強欲男だ。

それが経済大国となった中国のお膝元、国ではないとはいえカジノで富を築いているマカオがその中国の反対を押し切ってまで付き合い続けるのにふさわしい相手とは到底思えない。

ラテンなのでベッドの中ではアレなのかもしれないが、それならまだ弟の方かEUで双璧を張っているフランスあたりにしとく方がいいんじゃないか…と、思う。

以前一度だけそれを言ったら、それまで怒ったところなど見たことのなかったマカオが静かに激怒した。

特区同士で経済に強いもの同士というのもあり、気があって、それまでは比較的頻繁に行き来していたのが、3年間お出入り禁止になった。
普段温和な相手ほど怒ると怖いのである。

それ以来香港はマカオの考えを変えさせるのは諦めた。
そして、それでもことあるごとにその恋人様に泣かされるマカオのために、そいつと親しいイギリスにそれとなく色々話を聞いてみたのだ。

「ん~…植民地手放したくないっていうのは…経済的な事だけじゃなくてなんていうか……相手を愛おしいと思って執着しているという可能性もあるんじゃないか?」

自分はあまり感情的な方ではない…と自負している香港ではあるが、やはり自分の兄弟分が良いように扱われすぎてて面白くなくて、ついつい険のある言い方をしたせいだろうか、イギリスに苦笑混じりに言われた。

確かに未だに手塩にかけて育てた幼子が大きくなって独立した日に血を吐くイギリス自身はそうなのだろう。

しかしポルトガルはどうなのだろうか…まあ執着はしていたのだろうが……と、そんなことを考えていて、ふと思いついた。

いざ手放すとなったら執着するのなら、当たり前に手の内にあったら扱いが粗雑でも失いかけたら少しは態度も変わるのではないだろうか…。

そう思いついてからは、香港は3年間のマカオのお怒りによるお出入り禁止中にあれこれ計画を練っていた。

幸いにしてポルトガルと親しいイギリスもいる。
情報ならバッチリだ。

そして…綿密に立てた計画のもと、あえて世界会議の最終日を選んでマカオをそそのかしてポルトガルをデートに誘わせる。

もちろん実は今日こうやってマカオが約束をドタキャンされるのも想定の範囲内で…
香港は早速その計画を実行に移すべく、神妙な顔で口を開いた。

「っつ~ことで、イギリスが協力してくれたら嬉しいんだけど?」

と言えば、仕事を離れたプライベートだと途端にウェットになるイギリスのことだ。
育て子の一人である自分の兄弟分で冷たい恋人に悩む年下の青年を放置するはずもないということは、長年付き合いのある香港は当然わかっている。

案の定イギリスは実年齢からは考えられないティーンのような童顔に同情の色を思い切り浮かべて

「ああ、もちろん協力するぞ。国政に関わる事以外ならなんでも言え」
と、大きく頷いた。


その言葉を待っていたのだ。

我が意を得たりとばかりに内心ニヤリと笑う香港の心情は具体的にはわからないものの、何かを企んでいる事だけは手に取るようにわかってしまって、マカオはハラハラと状況を見守っている。

そんな中で香港が言い出したことは、イギリス、マカオ、どちらにとっても唖然とする提案だった。

「じゃ、イギリス、マカオと付き合うって事でおっけぃ?」

「「はあぁ???」」
なぜそうなる?と、二人の目が香港に向けられる。

全然意味がわからない。

(そもそも…大国とは言ってもあまりに可愛らしいこの方と私がお付き合いするというと、どちらが上で?)
と、ちらりと自分よりも幼く見える華奢な相手に目を向けて、そんなことを一瞬考えて

(…違うでしょうっ!そういう問題じゃないでしょうっ!
私ったら一体何を考えているんです)
と、脳内自己ツッコミを入れて一人赤くなるマカオ。


イギリスは純粋にわからないといった感じで、言葉の出ないマカオの代わりに
「俺とつきあったって仕方ないだろう?マカオが好きなのはポルトガルなんだから」
と、香港に言い返す。

もちろんそれだって香港にしてみれば当然想定の範囲内の質問だ。
にやりと笑っていう。

「以前俺が植民地について聞いた時、愛情があるから手放すのを惜しんだんだって言ったっしょ、イギリス。
だからポルトガルも取られそうになったら焦る的な?」
「なるほどっ!」

「イギリス相手なら色々対応もしやすいし?
俺と違ってポルトガルに対してもそこそこ言える間柄っしょ?」
「ああ、そうだな。」

適切な人選ということか…と、イギリスは納得したようだ。
一方で慌てたのはマカオの方だ。

「そんなっ!私は良いとしてもイギリスさんにそんなことさせられませんよっ!」
と香港に詰め寄るが、イギリス自らがそれを止めた。

「いや、今回のことは元々は知らなかったとはいえ俺がポルを誘ったからだし、それにせっかく香港やポルを通して縁ができたことだし……俺ももう少しマカオを知ってみたい気がするから…。マカオは嫌か?」

「いえ、そんな、いやだなんてことは…」

「じゃ、それでいいんじゃないか?ポルには俺から言っておくから。
そうだな…今日香港と食事に行った先で同席したマカオと気があって仲良くなったということでいいか?」

「おっけぃ♪じゃ、そんな感じで決まりってことで、食事行く的な?」
「ああ、そうしよう」

オロオロとしている間に香港主導の元に、どんどん話は進んでいき、このあともマカオは何度かイギリスと一緒に出かけ、遊ぶことになる。

そしてある日メールをもらうのだ。

『なあ、マカオ…。最近俺の事放っておいて何しとるん?』



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