――ああ…また見とる…。
世界会議後、自分の弟分スペインにこっそり熱い視線を送るイギリスにポルトガルはため息をついた。
あいつ…昔かくまってやった恩も忘れて元気になったら攻めこんでくるような奴やで?
自分かて散々過去もめたやん?
それやったら、ずっと側にいて尽くして尽くして経済破綻しかけても尽くした俺の方がええんちゃう?
…と、何度言ったかわからない。
それでもイギリスはそのくりくりと可愛らしい目を輝かしてにっこり言うのだ。
「お前…顔はスペインに似て良いんだけどなぁ。中身もスペインだったら良かったのになぁ…。お前みたいに絶対に俺から離れない中身スペインがいたら最高なのにな…」
もうどれだけボロクソな事を言っているのか、本人全く自覚がないのが恐ろしい。
さすがコミュ障をこじらせた島国だけある。
永久同盟、ズッ友…などと言えば聞こえは良いが、実は惚れた弱みの奴隷契約。
それは小さなイングランドが一目惚れした弟エスパーニャに顔がよく似ているがゆえに始まった関係だった。
そしてその後もイングランドの敵であったフランス側にいたために会えないスペインの身代わりとして、もしくは当て付け、八つ当たり相手として続いていく。
挙句にイングランド可愛さに結ばされた某条約で、国内の毛織物産業が致命的打撃を受け、それでなくても苦しい経済がさらに悪化。
イングランドに経済的隷属をする形になり、さらに同盟は奴隷契約化が加速する。
――それでも…好きやったんやもんなぁ…
と、過去形にして良いのかわからないほど、今でもイングランドに惹かれていると思う。
叶わぬ初恋に泣きながら自分にすがりついてくる幼い少年は痛々しくも愛らしく、どれほど理不尽な要求をされようと突き放す事など出来なかった…分、たまに会うと弟分には無意味な八つ当たりをした気はするが、そのくらいは許されると思う。
そんな状況の中で、国的には同盟期間が長くなって、結んでいる状態が当たり前すぎて、いつのまにか現状維持するしかない状態にはなっていたのだが、個人としてはやはりたまには優しさが欲しくなるものだ。
可愛い愛おしい守ってやりたい…と、気持ちを向けても応えてはくれないイングランドに少し疲れた頃、遠く離れたアジアを旅している途中で出会ったのがマカオだ。
――セニョールのお望みのままに…
ちょうど出会った頃のイングランドと同じくらいの少年だったマカオは、いつも笑顔でポルトガルを立ててくれる優しい子どもだった。
ヨーロッパとアジアと距離も離れているためにそうそう会いにも行けず、思い出したようにフラリと行っても、本当に待ちかねていたように嬉しそうな様子で歓待してくれる。
求めるばかりで求められない関係に、ポルトガルは思いの外疲れていたらしい。
いつしかマカオと大人の情も交わすようになり、植民地と宗主国でなくなったあとも、その関係は続いている。
穏やかで優しい、気軽で心地良いだけの関係。
それにずいぶんと癒やされながらも、それでもポルトガルは気づけばイングランドを優先している。
それはもう、長年染み付いた習慣とも言えるものだった。
今日もこのあとマカオと久々のデートの約束だったのだが、イングランドの
「…ポル…今日飲みに行くぞ。」
との一言で、何も言わずにマカオに断りのメールを打つ自分がいる。
イングランドはポルトガルが自分を優先するのに慣れすぎている。
急に断れば傷つくだろうし、関係も揉めてどこかぎこちなくなるだろう。
特に急に誘って来る時は大抵スペイン関係で落ち込んだ時なので、なおさらだ。
「…ん。」
と、マカオの事は何も言わず、ポルトガルは黙って先に行くイングランドの後をついていった。
それが今回の事件の発端になるなどとは思いもよらずに…。
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