明かりのついているリビングにそう声をかけて顔を出せば、そこには異分子の姿…。
…………
…………
…………
「…………」
「ちょ、ちょっと待ってぇぇ!!お兄さん、坊ちゃんに呼ばれたのっ!!坊ちゃんに呼ばれたから来ただけだからっ!!
そのハルバードどっから出したのよっ?!
お願い、しまってえええぇぇ~~~!!!!」
と、叫ぶ髭男に向かって、かつて愛用していた戦斧をブン!!と振り回す。
ひぃぃ~~!!!と悲鳴を上げながら頭を抱えて避けるフランス。
「…避けんなやっ」
「避けますぅぅ~~!!!」
と、逃げ回る男に向かって家具に当てないように再度戦斧を何度か振り回すが、最終的に
「起きちゃうからっ!!坊ちゃんも嬢ちゃんもやっと寝たのに起きちゃうからっ!!!」
と叫ぶ男の言葉にスペインはようやく斧をおさめた。
「どういう事やねん?」
時計はもう10時を回っている。
イギリスはとにかくとして、アンジェリカは当たり前に起きている時間ではない。
「あのね、とりあえず話をさせて?お前だって様子知りたいでしょ?」
と、とりあえず身の安全が確保された事を認識すると、フランスはイギリスが眠っているソファの対面側のソファにスペインをうながした。
「昼前かな、坊ちゃんから嬢ちゃんがミルク飲まないって泣きながら電話があったのよ。
体調が悪いわけでもなさそうなのに、朝からぐずってるんだって。
で、もう電話じゃどうしようもないでしょ?
だからお兄さんユーロスターに飛び乗ったのよ。
で、お兄さんが来た時には嬢ちゃんがミルク飲まないからって坊ちゃんまでギャン泣き。
脱水症状にならないようになんとか白湯だけは飲ませたんだけどね、二人してずっと泣いてて、泣き疲れてようやく寝てくれたのがついさっき…9時頃かな。」
「…なんで俺に連絡せえへんねや。」
「それなんだけど……」
ムスっと不機嫌になるスペインに、フランスはおそるおそる切り出した。
「なんで嬢ちゃんがお前の娘って思いこんじゃったわけ?
坊ちゃんに事情聞いたらこの子は飛行機事故で亡くなったイギリスの大手財閥の当主の忘れ形見で適切な後見人が見つかるまでってことで坊ちゃんが預かってるって事なんだけど…」
思いこんでる…という言い方は非常に不本意だ。
アンジェリカは確かに自分の娘なのに…と、スペインはさらに機嫌を降下させた。
まあ…イギリスにしたら言いたくない事なのかもしれないが……
「諜報活動が得意な国の事やで?そんなでたらめ信じるん?」
とスペインが言うと、フランスは苦笑した。
「いや、本来子どもなんて出来ない国体の…さらに男同士の間に出来た子どもっていうよりは信憑性あるでしょ。
そもそもお前そこまで坊ちゃんと親しいように見えなかったし、子ども作るような仲には思えないし……。
確かにこの子どことなくお前に似てる気がしないでもないけどさ、それだけでなんで思いこんじゃうよ?」
「…絶対に言いふらすんやないで?」
「…うん、お兄さんその気になったら口固いでしょ?」
「…それでイギリス傷つけるような事言うたら、楽には死なせへんで?」
「おお、怖っ。でもそれもない事をお前も知ってるからそんな事言ってるんでしょ?」
そんなやりとりを交わしてから、スペインは頭を抱えて大きく息を吐き出した。
「1年前の世界会議後の飲み会覚えとるか?」
「1年前…?」
フランスは一瞬首をかしげて、ああ、と頷いた。
「お前が飲み過ぎてぶっ倒れちゃった時ね?」
あの時はイギリスがスペインを送っていったまま帰ってこなかったので、代わりに色々やらされた記憶がある。
フランスの言葉にスペインは頷くと、また、はぁ…とため息をついた。
「あの時な…親分、酔った勢いもあって襲ってしもうてん」
「は?襲ったって誰を?」
「イギリスに決まっとるやろっ!」
「ええぇぇ~~??!!!!」
「で…その時に出来てもうて、子ども産むまでイギリスは公の場に出れんかったんや」
「いや…えと…ちょっと待って…でも……国が?」
「…自分も知っとるやろ?不思議な魔法国家やで?子どもくらい出来てもおかしないわ」
「あ~…それはそうかもしれないけど……」
言われてみればそんな気がしないでもない気がしてきてしまって混乱するフランス。
実はイギリスが幼い頃から秘かにスペインに片思いをしていた事に気づいていただけに、納得できてしまう。
合意かどうかは別にしてスペインと関係を持って、偶然とは言え長年片思いをしていた相手の因子を手に入れたなら、その子どもを…と考えて妖精さんに頼むか自分で魔法でなんとかするか、絶対にしないとは言い切れない。
そう思えば、頑なに赤ん坊を自分に見せようとしなかったのも合点がいく。
「始めがそんなんやったからな…。たぶん親分がこうしてイギリスと一緒におって赤ん坊を育てとるんも、責任感、義務感からイヤイヤやって思われとるんや。
でもちゃうねん。
4か月一緒に暮らして気付いたんやけど、過去あんまり振りかえらん俺が唯一くらい後悔すんのは、大抵イギリス関連やったんや。
ってことは…たぶん自分でも気づかんかったけど、ずぅ~っと特別に思うとったんやな。
今こうして自覚して子ども持って一緒におると、この子がどんだけかけがいのない特別な相手かってことがわかんねん。
この子とアンジェに危害加える相手がおったら、親分、自分の国の政府相手やって戦うで?
誰かて絶対に容赦せえへん。
この子ら失くしたらおかしうなってまう。そのくらい大事やねん」
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