ベイビー・ベイビー8

【赤ちゃんはお風呂が大好きです】



「マドレ~、アンジェ風呂からあげたって~~!!」
「マドレって言うなぁぁ~~!!!」

バスルームから叫ばれてイギリスはそう応えながらもバスタオルを持ってバスルームに走った。


アンジェリカ・カークランド、生後3カ月。
これまではベビーバスだったのだが、昨日から自称父親であるスペインと一緒にお風呂デビューである。

沐浴布を身体にかけて、スペインに身体を支えられた状態でご機嫌でゆらゆらとしていたアンジェリカは、よほど気持ちよかったのだろう。
お風呂終了の様相に、手足をバタバタして抵抗を試みる。

「…あぶ……あんぐぅぅ~~」

アンジェリカは何故かスペインをあんぐぅと呼ぶ。
何故あんぐぅなのかはわからない。
しかしそう言いながらスペインに手を伸ばすので、おそらくスペインの事を示しているのだと思う。
他は固有名詞で呼ばないので、自分だけ特別扱いされてスペインはメロメロだ。

その呼び名で(スペイン視点では)すがるような目で見られたので、スペインは相好を崩してあっさり前言を撤回し、あと10分だけとまたアンジェリカが暴れたためはがれかけた沐浴布をその小さな体にかけなおしてやる。

とたんにアンジェリカは満足顔だ。

そんな愛娘(?)を見てスペインは
「やっぱ、女の子はパドレ(お父さん)が好きなんやねぇ」
と嬉しそうにはしゃぐが、イギリスに言わせればそもそも父親じゃない。

アンジェリカは事故で死んだ英国の大手財閥の当主の忘れ形見で、後見人がみつかるまでという事でイギリスが預かっている赤ん坊なのだ。
なのに、去年のエイプリルフールにイギリスと関係を持ったと信じ込んだスペインが何故だかその時に出来た自分とイギリスの子だと誤解して、何度訂正をしようと耳を貸さない。

「もうそんな風に隠さんでもええんやで?
そりゃあ親分あんな真似してもうて出来た子やけど、自分の事もアンジェの事もちゃんと愛しとるし、大切にしたいねん。
信じたって?」
と、ぎゅうぎゅう抱きしめられて顔じゅうにキスを落とされて、自分だけ放置されたアンジェが拗ねて泣いてそれをあやしているうちにうやむやになって終わるのが日常だ。

スペインが初めてイギリス邸を訪れてもう1カ月以上。
最初の頃は毎日訂正をしていたが、イギリスもあまりに言葉の通じないラテン男を前に、事実を認識させるのをあきらめた。

イギリスのように日々国の仕事に従事しているわけではなく、普段はほとんど申し訳程度に国の仕事をする以外は畑仕事に勤しんでいるというスペインは、その畑の世話をしてくれる人を頼むだけ頼んで、国の仕事の方は部下にPCを届けさせてネットのやりとりですませている。
そして…それからいつのまにか住み着いているのだ…イギリス邸に。

(いや、まあありがたい。ありがたいし嬉しいんだけどな…)

それが思い切り解こうとしても解かせてもらえない誤解からだと思わなければ、まあすごく嬉しいし、ありがたい。

子どもの母親(?)だからと思うからか、仕事以外では近寄りすらしなかったイギリスにまで優しいし、アンジェリカには言うまでもない。

『親分シェスタしとるし夜は大丈夫やから、授乳は親分に任せて寝とき?』
と、請け負ってくれるので、夜の授乳はスペインに任せて眠れるようになったら、すごく身体が楽になった。

まあ…
『母乳やっとるんならイギリスが寝とっても服まくってちゃんと消毒して母乳飲ませてあと戻しとくから大丈夫やで。』
というふざけた言葉には――実際スペインは決してふざけているつもりはないらしいのだが――容赦なくこぶしを落としておいたが…。

考えてみればスペインは元々世話好きで、ショタぺド疑惑がかかる程度には子ども好きなので、実に手際よく育児をやってのける。
これが本当に人間の父親だったとしたら、いわゆるイクメンというやつだ。

沐浴もおむつ替えもやるし、天気が良い日は庭で日光に当ててやったり、仕事中はベッドやクーファンに下ろされるとぐずるアンジェリカをおんぶしている。

むしろイギリスより育児の負担が大きい上に大人用の炊事までやってくれるので、さすがに悪いと言うと、
「ん~イギリスやって仕事しとるやろ。
二人とも仕事しとるんやったら、家事や育児は体力がある親分がやった方がええやん。
気にせんとき。」
と、当たり前に言ってくれるし、もしアンジェが本当の娘でこんな夫と育てていたら、幸せだっただろうな…と、さすがにイギリスも素直にそう思った。



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