冷蔵庫から出したミネラルウォータをグラスに注ぎ、急いでリビングに戻ったのだが、スペインが離れたほんのわずかな時間の間にイギリスは眠ってしまったらしい。
コトン…とグラスをテーブルに置くと、スペインはソファの前にひざまづいて、一年ぶりに会うイギリスの寝顔をのぞきこんだ。
透けてしまいそうに白い顔。
目の下には隈。
前回あった時よりもやつれた気がする。
――一人でこっそり産んで一人でこっそり育てるつもりやったんか……
額にかかった金色の髪をそっとかきわけてやりながら、スペインは痛々しいまでに幼げなその寝顔に語りかけた。
確かに…信頼してくれ、頼ってくれとは言えない状態だった。
本当にやらかしてしまったと思う。
でも…それでも打ち明けて欲しかったし頼って欲しかったというのはスペインのエゴだというのもわかっている。
「…これからは今までの分もめっちゃ大事にしたるからな。
世界でいっちゃん大事にする。世界でいっちゃん幸せな奥さんにしたるから。
本当に幸せにすんで」
ちゅっとその額に口づけた時、下の方で、ふ…ふぇぇ…とか細い声がして、スペインは視線を足元のクーファンに移した。
そこには人形のようにちいちゃな手をぎゅっと握りしめてぽよっとした眉を寄せ、今にも泣き出しそうな顔をしている赤ん坊。
「あ~自分もやで?自分の事もちゃんと守ったるし幸せにしたる。
初めましてやんな?親分が自分のパドレ(お父さん)やで」
抱き上げると驚くほど軽い。
まだ首が据わってないので横抱きにすると、スペインの片腕にすっぽりと収まってしまう小ささで、その頼りなさが可愛らしい。
抱っこされてスペインの心臓近くに頭がきて心音が聞こえて安心したのか、もう泣きそうな表情ではなく、ぼ~っとスペインを見上げていたかと思うと、あぅあぅ何か話している。
小さな掌に自分の指を預ければ、きゅっと思いがけず強い力でその指を握りしめた。
ああ…可愛えなぁ…。
ぶわっと広がる多幸感。
昨日までの憂鬱が嘘のように幸せ色に塗り代っていく。
国であるから子どもが出来る事はない…
それ以前に男同士で子どもは出来ない…
そんな常識はこの思い込みの強いラテン男の前には通用しない。
もうスペインの脳内では幸せ家族計画がしっかりとたてられている。
子どもを連れて遊びに行きたい場所…しばらくは近所の公園、もう少し大きくなったら遊園地?
ユーロスターがあることだし、隣国の某夢の国に連れて行ってやったら喜ぶだろうか…。
その前に…可愛い子ども服をたくさん買おう。
ああ、大きくなったらパドレのお嫁さんになるとか言われたらどないしよ?
パドレにはマドレ言う嫁さんがいるからと言うべきやろか…それとも子どもの言う事やしええよって答えたるのが正しいんやろか…などなど、もう夢は広がりまくりである。
繰り返すが国で男同士で子どもは出来ない。
そして思いこんでしまったラテン男にその常識が通用することはない。
こうして目が覚めた後のイギリスにはもう一つ悩みの種ができるのである。
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