ベイビー・ベイビー4

事の発端は1年前の4月1日だった。
エイプリルフールにあの面々で会議…。
それでなくても毎回踊っている会議なのに、さらにカオスになること必至だ。
なのに、何故その日に会議をやる?!
真面目なドイツあたりが突っ込みをいれそうだが、実はその日に会議をやることを断固として主張したのはドイツだった。

何故かというと、“規則だから”。


世界会議は毎回前回の世界会議のきっかり60日後にやるという事が決まっている。
たとえその日が日曜祭日にあたろうと、その分は代休を取ってもやる。
一度ずらすと延々とずれていくし、それでなくてもやる気のない国々がサボりだす…。
断固としてそう言い、開催をさせるのである。

まあそれでもいつも踊っているだけに、それ以上踊りようもなく、その日もいつもと同じように何も決まらず会議は無事終わった。

そして雪崩込む慰労の飲み会。
なにしろタダ酒だ。
退屈な3日連続の会議に耐えたのもこのためだと言って良い。
今回の主催はイギリスだが、それなりに良いつまみも酒も用意している。
イギリス料理はまずいと言うが、それなりのシェフを雇って作らせれば別にイギリス国内で作った料理が全てまずいわけではないのである。

こうしてスペインは悪友達と一緒に旨い生ハムに舌鼓を打ちながら、楽しくタダの高級ワインを飲んでいた。
そしてずいぶん飲んでだいぶ酒がまわった頃、イギリスがグラスを二つ持ってこちらへ近づいてきた。

酒癖が悪い事で知られるその男にスペインは一瞬警戒するが、どうやら彼の目的は自分ではなく隣のフランスらしい。
他人事であれば喧嘩も良い酒のつまみだ。
巻き込まれないようにと少し距離を取るプロイセンを横目に、スペインは一番良い位置で見られるようにとそのままニヤニヤと立っていた。

「おい、髭。どうだ、飲んでるか?」
と、そう機嫌も悪くはない様子で話しかけるイギリスに、フランスは上機嫌でワイングラスを揺らして見せる。
「やっぱりお兄さん家のワインは一番だよねぇ」
と、暗にフランス産ワインを飲んでいる事を示すフランスに、イギリスは少し眉を寄せたが、すぐに気を取り直したようで

「うちはあまりワインは盛んじゃねえから、ワインは仕方ねえからお前んとこのだけど、国産の良いスコッチがあるんだ。
特別に良いやつを用意してやったから、ワインばかり飲んでねえで飲めよ。」

そう言ってグラスをグイっとフランスにつきだすが、そういう事なら味見くらいはしたい。
スペインはそのイギリスの手からグラスを取り上げると、中身に口をつけた。
しかしワインよりも度数の高いその酒は、いい加減酔いのまわったスペインには過ぎる濃さだったようで、それを飲み込んだ瞬間から記憶が飛んでいる。

そして…夢を見た。
懐かしい夢を……。

500年ほど前の夢。

当時はスペインが一番羽振りの良かった時期で、自国の末の王女を嫁に嫁がせるのに代わりにその国の国体を寄越せなんて無茶ぶりも普通に通った時代である。
そして実際に送られてきたのは、なんとも可愛らしい少年だった。

常にその身を戦場に置くレコンキスタを超えてきたスペインは普通に性欲の処理に男性と寝る事もあったし、その中には少年ほどの年の相手がいなかったとは言わない。

顔も好みだったし手を出しても良かったのだが、覇権国家に送られてきたその小さな島国の化身はひどく緊張している様子で、なんだか憐みを誘った。
のちにその緊張は裏切りを企んでいたためのものだったのか…などと思って、情けをかけたのを後悔するのだが、その時は本当に可哀想だと思ったのである。
まあハッキリ言ってしまえば、怯えているように見えたので手を出さなかった。

しかしながら、今、その後の歴史も全て知った上で相手に対峙してみると、そんな気遣いをする気もなくなる。

どうせ裏切りのタイミングをはかっているのだ。
自分の方だって好きにして何が悪い。
そんな気になって、泣きながら抵抗する少年を組み敷いた。

そして…本懐を遂げた…と思った瞬間、下肢に感じる不快感に目を開ければ自国の城にいたはずが、どこか見覚えのある白い天井。

(…夢やったか…なんで今更。あほらし…)
あくびをしながら目をあけて感じる気配。
おそるおそる気配の方へと目を向けてみて、スペインは驚きのあまり叫びだしそうになり、慌てて手で口をふさいだ。



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